Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
腎・泌尿器:腎・尿路

(S442)

腎臓原発カルチノイド腫瘍の1例

A case of primary renal carcinoid

山田 恭弘1, 矢野 公大1, 篠田 康夫1, 大江 宏2, 伊藤 吉三1

Yasuhiro YAMADA1, Kimihiro YANO1, Yasuo SHINODA1, Hiroshi OHE2, Yoshizou ITOH1

1京都第二赤十字病院泌尿器科, 2学研都市病院泌尿器科

1Urology, Kyoto Second Red Cross Hospital, 2Urology, Gakken Toshi Hospital

キーワード :

【はじめに】腎腫瘍のスクリーニング・診断には,超音波断層法は必要不可欠である.腎臓原発の悪性腫瘍としては腎細胞癌,腎盂癌,Wilms腫瘍,Bellini管癌などがある.最も多く認められる腎細胞癌の中で,淡明細胞型は血流が豊富であり,また乳頭型,嫌色素型では,淡明細胞型に比して血流が乏しい傾向にあるとされている.したがって画像検査で,淡明細胞型の診断は比較的容易であるが,乳頭型,嫌色素型では,腺腫との鑑別が困難な場合もある.今回われわれは腎癌と鑑別が困難であった,極めて稀な腎臓原発のカルチノイド腫瘍の1例を経験したので,その画像検査を含めて報告する.
【症例】30歳代,男性.
【既往歴】特記すべき事無し.
【現病歴】平成21年4月頃より腰痛が出現し,徐々に増強するため6月末に当院整形外科受診.胸腰椎MRIにてTh 9, 10, L3, S2に転移性腫瘍を認めたために,原発巣検索のため,PET施行.PETにて左腎に集積を認めたため,左腎腫瘍の骨転移の疑いにて,7月当科紹介となった.
【画像検査】①超音波断層像:左腎に141×89 mmの腫瘤を認めた.境界は鮮明で,充実性腫瘍の内部にhypoechoicな部分を混じ,内部エコーはmixed patternを施していた.ドップラー超音波断層法では腫瘤内部に血流信号を認めるものの,乏しい傾向にあった.②CT検査:左腎に内部不均一な腫瘤を認め,造影CTでは不均一にenhanceされるものの,造影早期相での染まりは弱かった.腎静脈への腫瘍伸展は認めず,リンパ節の腫脹も認めなかった.以上より,腎細胞癌の中でも比較的血流の乏しい乳頭型もしくは嫌色素型の疑いにて,H21年8月開腹にて左腎摘除術施行.術中所見は,腫瘍と周囲組織との癒着を認めず,腫瘍を一塊として摘出することが可能であった.
【肉眼的所見】出血や嚢胞を認める境界明瞭な軟らかい腫瘍で,最大径は140 mm.
【病理組織検査】索状やリボン状構造を主体とする腫瘍で,免疫染色上も神経内分泌マーカー(クロモグラニンA, シナプトラフジン,CD56)が陽性であり,カルチノイド(高分化神経因性腫瘍)と診断.
【考察】カルチノイドは神経内分泌細胞への分化を示す腫瘍の総称であり,小腸などの消化管粘膜,肺などの気管支粘膜など粘膜内に神経内分泌細胞が常在している部位に発生することが多く,実質臓器である腎臓に発生するものは極めて稀である.腎原発カルチノイドに関する報告によると,発症年齢は20歳代から60歳代に及び,性差はなく,また腹痛,水様性下痢,気管支喘息様発作などの症状をおこすカルチノイド症候群を伴う例はほとんどなかった.本症例でも,カルチノイド症候群は伴っておらず,術前の画像検査などからも,腎原発カルチノイド腫瘍を疑うことは困難であった.本症例では,骨転移を認めていたため悪性腫瘍として取り扱い,術後補助療法としてインターフェロンα,オクトレオチド投与を施行中で,術後5ヶ月を経過したがSDで生存中である.