Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
産婦人科:胎児機能評価ほか

(S440)

臍帯脆弱性に起因すると考えられ,変動一過性徐脈を伴った臍動脈血流変動現象

Abrupt change of umbilical arterial flow with variable deceleration suspecious to be caused by umbilical cord fragility.

張 良実, 中井 祐一郎, 潮田 至央, 石田 剛, 郭 翔志, 中村 隆文, 下屋 浩一郎

Yangsil CHUNG, Yuichiro NAKAI, Norichika USHIODA, Tsuyoshi ISHIDA, Shouji KAKU, Takafumi NAKAMURA, Koichiro SHIMOYA

川崎医科大学産婦人科

Department of Obstetrics and Gynecology, Kawasaki Medical School

キーワード :

【はじめに】
臍帯異常に伴う急激な血流障害が動脈において発生した場合には,胎児迷走神経反射を誘発し,突然死の原因になりえると考えられている.このような胎児死亡は,正常発育を来している胎児にも発生し得ることから,その予知・予防は極めて困難であると考えられる.今回,我々は,羊水過多を来した胎児が,骨盤位から頭位に自己変換した当日,変動一過性徐脈が頻発した一例において,臍帯脆弱性との関連を考えざるを得ない興味深い臍帯血流波形を得たので報告する.
【症例】
症例は,26歳の初妊婦であり,16歳時より糖尿病にて近医で管理されていた.25歳時より腎機能が低下し,透析を導入後に妊娠が成立した.妊娠12週以降,週4回の透析を行うとともに,インスリンによる血糖管理,ならびにメチルドパによる血圧制御をおこないつつ,妊娠管理を行っていた.妊娠24週以降入院の上,胎児を含めた厳重管理を行っていたところ,胎児発育は正常下限域を推移しつつも,明らかな発育遅延や形態異常を認めることはなかった.また,羊水量は過多傾向にあったものの羊水除去を要することはなく,胎児心拍数図を中心に管理したが,特段の異常を認めなかった.入院後より骨盤位のままであったが,妊娠33週に骨盤位より頭位に自己変換した.当日施行した胎児心拍数図において,突如変動一過性徐脈の散発が認められたため,超音波ドプラ法を施行した.臍帯動脈において,正常な血流波形から瞬時に拡張期全域にわたって血流速度が著しく低下する現象が観察された.この現象は,胎児膀胱周囲を巡る動脈においても確認されたことから,2本の併走臍帯動脈の血流波形の差異に起因するのではなく,一本の動脈における連続的な血流動態の変化が確認された.同日帝王切開により,1627gの男児をApgar score7/8娩出したが,臍帯はWalton膠質に極めて乏しく,捻転が認められた.
【考察】
一般に臍帯動脈血流は,標的臓器の血管抵抗を測る指標や心駆出力の指標として用いられるが,急激な臍帯循環障害に関する報告は稀である.西尾らは,同様の所見を認めた児が後に子宮内胎児死亡に至ったことを報じているが,今回の症例においては,この急激な血流波形の変化と変動一過性徐脈散発の発生時期が同日であったことから,臍帯循環障害との連関を指摘することも可能であろう.勿論,本血流所見が胎児死亡に直結するものであるか否かは全く不明であり,我々はあくまで胎児心拍数図の異状によって急速遂娩を決定したが,今後の症例の集積により,血流速度波形による臍帯循環障害診断の可能性も考えられた.