Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
産婦人科:胎児機能評価ほか

(S438)

血管輪の胎児診断

Fetal diagnosis of vascular ring

川滝 元良

Motoyoshi KAWATAKI

神奈川県立こども医療センター新生児科

Neonatology, Kanagawa Childrens Medical Center

キーワード :

【目的】
血管輪はこれまで,乳児期に呼吸症状,嚥下症状で発症するまれな疾患と考えられてきた.また,診断がつきしだい手術治療が行われてきた.しかし,最近の胎児心スクリーニングで胎児診断症例が多数集積されてくると,血管輪比較的頻度の高い疾患であることがわかってきた.また,その多くが新生児期には無症状であることがわかってきた.手術時期の選択に苦慮することも多い.これまで血管輪と胎児診断した症例を後方視的に検討し,胎児エコー所見と臨床症状,3DCT所見を比較検討したので報告する.
【対象】
血管輪と胎児診断した21例.診断時期はすべて2003年以後であり,特に最近3年間に集中していた.
【結果】
母体紹介週数は14週から37週.紹介理由は心エコー異常16例,心外奇形4例,心奇形家族歴1例.紹介元は産科クリニックが13例(62%)ともっとも多く,ついで産科病院4例,総合病院4例であった.このうちスクリーニングを主に検査技師が行っている施設は10例(48%)であった.出生後数日以内に3DCTを行って確定診断した.最終的に16例は血管輪と確定(右側大動脈弓+Kommerell憩室12例,重複大動脈弓4例),3例では血管輪を否定.2例は他院で出生した.血管輪16例中,心外奇形合併例は2例,心内奇形合併例は2例,染色体異常合併なし. 臨床症状および手術の時期は,右側大動脈弓+Kommerell憩室では2例(17%)が新生児期から,2例(17%)が2か月ころから呼吸症状がみられた.症状が出現した4例(33%)および無症状の1例に動脈菅結紮術を行った.重複大動脈弓では2例(50%)が出生直後から呼吸症状がみられた.合併奇形で死亡した1例を除き3例に生後1か月以内に大動脈弓切離術を行った.1例は気管狭窄+軟化症のために2年後に死亡した.臨床症状を認めた症例は3DCTで気管の狭窄変形を認めた.胎児心エコーでは気管の狭窄変形自体を確認することはできなかったが,気管の断面が確認しずらく,また,血管輪の周径が小さい傾向を認めた.また,方向性のあるパワードプラー(HDフロー)を用いると右側大動脈弓+Kommerell憩室と重複大動脈弓を正確に鑑別できた.
【考案】
胎児診断される症例の増加により血管輪の臨床象は大きく変化した.従来の診断でき次第手術するという治療方針を再検討する時期に来ていると思われる.われわれの現時点での方針は,以下のとおりである.出生直後に3DCTを行う.重複大動脈弓の場合は気管の狭窄の有無にかかわらず,1か月以内に細い方の動脈弓を切離する.右側大動脈弓+Kommerell憩室では呼吸症状と気管の狭窄変形所見がなければ動脈管結紮術はせず,注意深い経過観察を続ける.今後さらに症例を集積し,長期のフォローアップを行なう中で治療方針を再検討したい.