Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
産婦人科:婦人科

(S436)

術前に卵巣嚢腫と診断した腸間膜リンパ管腫の一例

A Case of lymphangioma of the mesentery

生田 明子1, 角 玄一郎1, 分野 由佳里1, 溝上 友美1, 杉本 久秀1, 安田 勝彦1, 堀越 順彦1, 鷹巣 晃昌2, 四方 伸明2, 神崎 秀陽1

Akiko IKUTA1, Genichiro SUMI1, Yukari WAKENO1, Tomomi MIZOKAMI1, Hisahide SUGIMOTO1, Katsuhiko YASUDA1, Yorihiko HORIKOSHI1, Kousyo TAKASU2, Nobuaki SHIKATA2, Hideharu KANZAKI1

1関西医大産婦人科, 2関西医大病理部

1Obstetrics and Gynecology, Kansai Medical Univ., 2Clinical Pathology, Kansai Medical Univ.

キーワード :

【はじめに】
腸間膜リンパ管腫は,小児に多く成人には比較的まれである.症状は腹痛が最も多く,他に腫瘤触知,腹部膨満といずれも非特異的なものである.また,今回のように偶然発見される無症状なものから,緊急外科的処置を要するものまであり術前診断が難しいとされている.今回,術前画像診断で卵巣嚢腫を疑い,術中に腸間膜リンパ管腫と診断した症例を報告する.
【症例】
57歳女性
既往歴:35歳時,胃癌にて胃2/3切除
現病歴:胃癌術後の定期検診中に施行されたCTで右卵巣嚢腫を指摘され当科紹介となる.内診上,子宮附属器部に腫瘤を触知せず.経腟超音波上,子宮体部は53mm,子宮体部後壁に径30mmの漿膜下子宮筋腫を認める.右側卵巣は描出できなかったが,右外腸骨血管に隣接した部位に径約55mmの多房性嚢胞を認めた.左側卵巣は正常所見であった.ダグラス窩に腹水貯留なし.右附属器部嚢胞は不整楕円球形で境界は不明瞭.内部エコーは嚢胞成分を主体とするが,壁より内部に突出する充実部を認めた.骨盤部MRIにて漿膜下子宮筋腫と膀胱の右上方にT1Wで低信号,T2Wで高信号を主体とした歪な腫瘤を認め,右側卵巣嚢腫と診断した.血液検査にて小型〜中型成熟リンパ球増加(22.5%)を認め,血液内科での精査の結果,成人T細胞性白血病(ATL)と診断された.なお,腫瘍マーカー値は異常を認めなかった.開腹手術を施行したところ,子宮体部後壁に径約3cmの漿膜下子宮筋腫を認めたが,両側卵巣に腫大所見はなかった.腹腔内を検索し,回腸末端部から約8cm口側部の腸間膜に女性手拳大の嚢腫を認めた.リンパ管腫の可能性が高いこと,および腸の通過障害や腸捻転を来す危険性があることから,外科医師にて腸間膜嚢胞を含む回腸部分切除術が施行された.術後病理診断はcyst lymphangioma mesenterium(腸間膜リンパ管腫)であった.経過良好につき術後11日退院となった.
【考察】
 腸間膜由来の嚢胞性疾患が術前に診断されることは約半数に留まる.本症例のように術前診断が卵巣嚢腫であることも少なくない.単に腹腔内腫瘤や肝・腎・膵嚢胞と診断されることもある.下腹部痛を伴う骨盤内腫瘍を認める場合,卵巣腫瘍茎捻転や破裂,附属器膿瘍などの婦人科疾患,あるいは虫垂炎,虫垂腫瘍,腸重積,クローン病などの消化管疾患が鑑別として挙げられる.本症例は,経腟超音波で左側卵巣が描出し得たのに対し,右側卵巣が同定できなかったことと,外腸骨血管近傍に嚢腫を認めたことから右卵巣嚢腫と診断した.経腟超音波上,不整楕円球形で被膜が一様でなく,境界不明瞭な嚢腫を認めた場合,消化管由来の腫瘍も疑い再度経腹超音波を行い,腫瘤の引きつれや呼吸性移動の有無を確認することが必要と思われた.