藤目 美佳¹, 金川 武司¹, 和田 朋¹, 谷口 友基子¹, 香山 晋輔¹, 澤田 健二郎¹, 冨松 拓治¹, 木村 正¹, 谷口 武², 岡上 祐子²

Mika FUJIME¹, Takeshi KANAGAWA¹, Tomo WADA¹, Yukiko TANIGUCHI¹, Shinsuke KOYAMA¹, Kenjiro SAWADA¹, Takuji TOMIMATSU¹, Tadashi KIMURA¹, Takeshi TANIGUCHI², Yuko OKAUE²

¹大阪大学産科婦人科, ²定生会谷口病院産婦人科

¹obstetrics and gynecology, Osaka University Hospital, ²obstetrics and gynecology, Taniguchi Hospital

キーワード :

【はじめに】
正常妊娠では，トロホブラスト細胞がらせん動脈壁に浸潤し，らせん動脈を大きく拡張した筋層を欠く子宮胎盤血管に変え，大量の血液を絨毛間腔に供給する．しかし，妊娠高血圧症候群では何らかの原因でその機構に異常が生じ，トロホブラスト細胞のらせん動脈壁への侵入が障害され，胎盤血流供給不全が現れる．妊娠高血圧症候群では，子宮の血管抵抗の異常上昇によって，子宮動脈ドプラ血流速度波形は拡張期血流速度の低下した異常波形（異常RI値及び拡張早期切痕出現）となることはすでに知られているが，偽陽性・偽陰性が多い．近年，血圧脈波による動脈スティフネスの指標（Augmentation Index：以下AI）の測定法が開発され，循環器領域では臨床応用されている．AIは全身の血管状態を反映し，血管が硬くなるほど上昇する．妊娠高血圧症候群を発症した妊婦では，全身の血管内皮細胞が障害され，全身の血管が硬くなり，AIが上昇していると考えられる．今回，子宮における局所的な血管抵抗を反映する子宮動脈血管抵抗指数Resistance Index（RI），及び，全身の血管抵抗を反映するAIとの関係を調べた．
【対象と方法】
2009年3月〜12月に当院にて超音波検査を施行した妊娠中期（18〜24週）の妊婦148名を対象として，子宮動脈ドプラ血流速度波形の測定を行い，左右子宮動脈RIの平均値（mean-RI）を算出した．さらに超音波検査終了後，安静座位の状態でAIを測定した．AIの測定には，橈骨動脈を用いて非侵襲的・短時間で測定可能な血圧脈波計HEM-9000AI（オムロン社製）を使用した．全ての妊婦からインフォームド・コンセントを得た．子宮動脈mean-RIとAIとの相関関係を，Spearmanの順位相関係数を用いて検討した．
【結果】
妊娠中期における子宮動脈mean-RIとAIとの間に有意な相関はみられなかった（r＝0.084，P＝0.31）．
【考察】
子宮動脈は，子宮における局所的な血管抵抗を反映しており，動脈スティフネスの指標であるAIは，中枢から末梢の微細血管まで全身的な血管抵抗を反映している．今回の結果より，子宮動脈mean-RIとAIとの間に有意な相関はみられず，この二つはそれぞれ独立した異なる指標であることが示された．子宮動脈mean-RIとAIとを組み合わせることによって，妊娠高血圧症候群や子宮内胎児発育遅延などのハイリスク群に対する重症化の予測や検出率の上昇が期待される．