Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
産婦人科:胎児診断(3)

(S428)

動脈管早期収縮の1症例

Premature constriction of ductus arteriosus-a case report

根本 芳広1, 平野 和雄1, 源田 辰雄1, 村山 行信1, 木下 叫一1, 菱谷 隆2, 川瀧 元良3

Yoshihiro NEMOTO1, Kazuo HIRANO1, Tatsuo GENTA1, Yukinobu MURAYAMA1, Kyoichi KINOSHITA1, Takashi HISHITANI2, Motoyoshi KAWATAKI3

1木下産婦人科クリニック産婦人科, 2埼玉県立小児医療センター循環器科, 3神奈川県立こども医療センター新生児科

1Obstetrics, Kinoshita Ladies clinic, 2Cardiology, Saitama Children’s Medical Center, 3Neonatology, Kanagawa Children’s Medical Center

キーワード :

【緒言】
動脈管早期収縮(PCDA)はまれな疾患でありその胎児診断症例は少ない.重篤な場合は胎児機能不全や胎児死亡,新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)を合併して呼吸不全から死に至ることもある.しかし,早期に胎児診断し適切に対処されれば比較的予後は良い.PCDAの超音波画像所見はその病態生理から特徴的であり胎児診断は十分可能である.今回われわれは,胎児診断し救命し得た動脈管早期収縮症例を経験したのでここに報告する.
【症例】
34歳,2回経妊2回経産.既往歴・家族歴に特記すべきことなし.妊娠中の投薬歴はなかった.妊娠34週1日の妊健時,超音波断層法とカラードプラ法にてCTAR=29%,4CVで右心系の肥大があり,右室内膜は肥厚し輝度の増強を認め右心室の収縮が低下しており,三尖弁の閉鎖不全を認めた.肺動脈は9.8mmと拡大しており肺動脈血流は増加していた.動脈管血流は20cm/s程度と非常に低速であり動脈管の中間で一部狭窄を認め,血流は連続性であった.この部位の血流PIは1.9以下であった.胎児静脈系の血流は,IVCのPLIは0.66,静脈管は心房収縮期の逆流波が心室収縮期の流入波の50%以下,臍静脈の血流はフラットではなくsingle pulsations でいずれも異常パターンを示した.
【考察】
カラードプラ法による逆流の評価では幅広の血流が心房壁まで達し,拡張期にも逆流を認めたことからTRは高度と考えた.また,右心内膜肥大や収縮不良の所見はPCDAから後負荷がかかったことにより二次的に心内膜繊維が弾性化したものと考えた.静脈系の異常はすべて右心負荷が大きいことを示唆していた.また肺動脈が拡大しており通常より肺血流が多く,また肺動脈圧も上昇していると思われた.動脈管の一部が極端に狭い所見より,動脈管の早期収縮が疑われた.これはカラードプラ法にて連続性血流や流速が非常に遅いことで証明された.動脈管におけるPI低値の連続性血流は,拡張期の圧が高く拡張期においても狭窄の前後で圧差が存在する所見であり,本症例の診断には特徴的な所見である.また,右心負荷が強いことで右心不全に陥ることが予測された.さらに胎児期における肺血管への圧及び容量負荷のため,PPHNの合併に注意が必要と思われた.これらを踏まえ,胎児の肺成熟を考え合わせて超音波断層法で心機能を厳重に管理して分娩時期を決定することがPCDA症例の予後を大きく左右する.本症例は入院管理中,妊娠35週0日に破水し自然陣発から経腟分娩となった.2240g Ap9/9 酸素投与のみにて順調に経過し退院となった.
【結語】
PCDAの超音波所見はその病態生理と良く合致した特徴的な所見を示し,胎児診断も十分可能である.PCDAは心不全やPPHNなどを併発して重篤な転機を来すこともあるが,早期に胎児診断し分娩時期を適切に判断できれば,その予後は比較的良好である.超音波断層法にカラードプラ法を組み合わせる事はPCDAのスクリーニングに非常に有用であり,その予後の改善に繋げることが出来ると考えられた.