林 利江¹, 井澤 秀明², 岡田 恭芳², 井上 千賀子², 福地 智恵², 小松 貴紀², 川滝 元良³

Rie HAYASHI¹, Hideaki IZAWA², Takayoshi OKADA², Chikako INOUE², Tomoe FUKUCHI², Takanori KOMATSU², Motoyoshi KAWATAKI³

¹医療法人愛育会愛育病院検査室, ²医療法人愛育会愛育病院産婦人科, ³神奈川県立こども医療センター新生児科

¹Clinical Laboratory, Aiiku Hospital, ²Obstetrics and Gynecology, Aiiku Hospital, ³Department of Neonatorogy, Kanagawa Children’s Medical Center

キーワード :

【はじめに】
完全大血管転位（TGA）Ⅰ型は，先天性心疾患の中で頻度も多く，出生直後から高度の低酸素血症で発症し24時間以内に死亡することもある重症心疾患である．しかしながら，四腔断面に異常所見が無いため，胎児スクリーニング率が非常に低いのが現状である．当院では検査技師による胎児超音波スクリーニング検査が平成18年10月からルーチン化された．その後2年間に4028人の胎児スクリーニングを行い，TGAⅠ型が2例発見された．
【症例1】
29歳．1G0P．他院にてクロミッド＋AIH後，12週1日に当院へ紹介となる．
≪経過≫在胎27週1日，胎児超音波スクリーニング検査を施行．流出路の正常構造を描出出来なかった．その他の異常所見は認めなかった．33週時にGE社Volson730によるSTIC法で3Dデータを収集し，神奈川県立医療センター（KCMC）に送付した結果TGAⅠ型が疑われたため，34週3日に母体紹介し，精査の結果TGAⅠ型と胎児診断された．
≪結果≫37週6日に自然経膣分娩にて出産した．多呼吸，高度のチアノーゼあり．心雑音，肝腫大なし．上下肢ともに脈拍はよく触知．心臓超音波にてTGAⅠ型　restrictive PFOと診断され，日令0にバルーン心房中隔裂開術（BAS）を施行した．日令2に根治手術を行い，3ヶ月後に退院となった．
【症例2】
37歳．2G2P．前児は32歳，35歳で正常分娩．既往歴・家族歴に特記事項なし．
≪経過≫在胎28週3日，胎児超音波スクリーニング検査を施行．3VV，3VTVレベルで血管の配列の乱れを認めた．左室から起始する血管が心室中隔を騎乗するような印象も受けたため，ファロー四徴症も含めた流出路異常疾患を疑い，KCMCへ母体紹介となった．KCMCの胎児心臓超音波検査にてTGAⅠ型と胎児診断された．
≪結果≫38週3日に誘発経膣分娩にて出産した．チアノーゼあり．心雑音なし．肝1cm触知．脾触知せず．心臓超音波にてTGAⅠ型，PFO2mm大，PDAは大動脈側に狭小化ありと診断された．PFOの狭小化，SpO2の低下，tachypneaのため，日令1にJatene手術を行った．日令17に退院となった．
【まとめ】
TGAをスクリーニングすることは容易ではないが，5CV〜3VV〜3VTVでの血管の繋がりの確認を試みたことで，胎児診断への糸口を見出すことが出来た．胎児診断により出産後の迅速な加療と良好な経過につながり，児への負担の軽減と両親への対応に良い影響を与えたと思われる．