英文誌(2004-)
一般口演
産婦人科:胎児診断(1)
(S423)
総肺静脈還流異常・単独発症2例の胎内診断
Diagnosis of 2 cases of Isolated TAPVD in prenatal
小谷 よしみ1, 辻村 久美子4, 川滝 元良3, 井上 裕美2, 和泉 玲子5
Yoshimi KOTANI1, Kumiko TSUJIMURA4, Motoyoshi KAWATAKI3, Hiromi INOUE2, Reiko IZUMI5
1湘南鎌倉総合病院検査部, 2湘南鎌倉総合病院産婦人科, 3神奈川県立こども医療センター周産期医療部新生児未熟児科, 4コシ産婦人科医院超音波検査室, 5コシ産婦人科医院産婦人科
1Department of Laboratoly, Shounan Kamakura General Hospital, 2Department of Obstetrics and Gynecology, Shounan Kamakura General Hospital, 3Department of neonetalogy, Kanagawa Children’s Medical Center, 4Dpartment of Ultrasound, Koshi Obstetrics and Gynecology Clinic, 5Department of Obstetrics and Gynecology, Koshi Obstetrics and Gynecology Clinic
キーワード :
総肺静脈還流異常(以下TAPVD)は産科超音波検査に携わるものならば胎内診断の目標とする疾患の一つであるものの,単独のTAPVDは発症の頻度も非常に少なく,胎内での診断は非常に難しいといわれてきた.日本小児循環器病学会で作成されている胎児心臓超音波検査の指針において,ルーチン検査では 肺静脈の診断はふくまれていないが,神奈川胎児エコー研究会は,肺静脈の走行に関してルーチンの検査目標としてカラードプラ等を使用し,可能なかぎり確認をしていこうと推奨してきた.今回われわれのグループで単独のTAPVDのⅠ型とⅢ型を胎内診断しえたので報告したい.
【症例1】
32歳1経妊1経産.病歴,家族歴に特記することは認めず.在胎19週の胎児スクリーニング検査で左房に肺静脈が還流せず,Common Veinを通ってSVCの背側に合流しているのを確認し,TAPVDⅠb型を疑い,3次病院に精査紹介,TAPVDⅠb型と診断される.胎内では肺静脈の流速は両側ともに正常範囲をこえることなく,波形も2峰性の波形を保っており明らかな肺静脈狭窄はないと推測された.39w2dに自然発来の陣痛にて2898gの女児を経膣分娩.児は出生後肝血管腫を追加診断されたが,SPO2も80代で推移し日令11に根治術を施行,経過良好で退院された.
【症例2】
38歳1経妊1経産.第1子はTAPVDのⅠ型で胎内診断されず,新生児搬送され同日に緊急手術をされている.在胎32週で当院初診,初診時のルーチンの胎児超音波検査では右房と比較してやや小さい左房と約80cm/sのTRを認め要フォローとされている.妊婦本人の希望で34週に胎児心臓スクリーニング検査をおこない,両側肺静脈が左房に還流せず,左房背側の垂直静脈をとおり横隔膜をぬけ,左門脈に合流しているのを確認し,TAPVDⅢ型を疑った.2次精査・治療のため3次病院に転院,精査の結果,TAPVDのⅢ型と肺静脈の狭窄が診断された.児は在胎38週0日,オキシトシンによる誘発分娩にて出生.3066gの女児,Apgar Scoreは1分後8点5分後8点 出生時に第一渧泣はあったが全身チアノーゼを認め,肺静脈及び静脈管狭窄が考えられたため生後2時間30分で根治術を施行.児は出生後もTAPVD以外に明らかな所見を認めていないが,術後,にゅうび胸腹水が消失せず,生後6ヶ月で亡くなった.
【結論】
TAPVDは17000人に1人の割合といわれ,多くは心臓をはじめ他の疾患との合併が多い.なかでもⅢ型は本症全体の約20%の割合といわれその単独の発症は非常にまれであるが,症状は重篤であり,緊急の処置が必要となる.単独のTAPVDの胎内における診断は診断装置の限界ではないかと思ってきたが従来の診断装置でも充分診断が可能であり,児の重症度の予測の判断ができる可能性があることがわかった.肺静脈の走行の診断は難しいが,世界産科婦人科超音波学会でも近年肺静脈の診断を推奨しており,これまで以上にルーチンでも慎重に検査したい.