Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
消化器:その他

(S412)

超音波探触子のアルコール消毒における耐性の研究

Effect of alcoholic disinfection on the degradation of ultrasonic probes

鯉渕 晴美1, 小谷 和彦1, 藤井 康友1, 紺野 啓1, 松永 宏明1, 宮本 倫聡1, 2, 谷口 信行1

Harumi KOIBUCHI1, Kazuhiko KOTANI1, Yasutomo FUJII1, Kei KONNO1, Hiroaki MATSUNAGA1, Michiaki MIYAMOTO1, 2, Nobuyuki TANIGUCHI1

1自治医科大学臨床検査医学, 2自治医科大学内科学講座内分泌代謝学部門

1Department of Clinical Laboratory Medicine, Jichi Medical University, 2Division of Endocriology and Metabolosm, Department of Medicine, Jichi Medical University

キーワード :

【目的】
探触子を介した感染症のoutbreakは数編の報告がある.しかし,患者を検査した後の超音波探触子がそれほど汚染されているのか,また探触子を介して細菌の伝播が起こりえるかを調査した報告はこれまでにない.我々のこれまでの研究で,患者を検査した後の探触子は皮膚の常在菌に汚染され,更にその後探触子を別の患者に使用すると細菌の伝播が起こりえることが判明した.使用後の探触子は,探触子表面のゲルを紙で拭き取るのみでもかなりの細菌の伝播を防ぐことができるが,アルコール綿で消毒すると伝播はほぼ完全に防ぐことができた.従って検査後の探触子はアルコール綿で消毒されるべきであると考えられるが,探触子のアルコール消毒に対する耐性は不明である.今回の研究は,探触子のアルコール消毒に対する耐性を評価することが目的である.
【方法】
探触子の破損状況は探触子表面の劣化状態のみではなく,そこから得られる画像の劣化状況も検討した.この際使用する探触子は主に用いられている,コンベックス型探触子とリニア型探触子とした.検査ごとに探触子表面をアルコール綿で消毒し,どの程度の期間で画像の劣化が始まるか検討した.なお,コントロールとして検査ごとに消毒しない探触子に関しても画像の劣化について検討を行った.劣化の評価方法は1.探触子表面をコインでなぞり,超音波画像の欠損の有無を評価する.(通称:コインチェック)2.画質分解能などの測定用標準試験体(通称:ファントム)から得られる超音波画像により超音波画像の輝度を観察し探触子から出力されている超音波の強度を評価した.
【結果】
実験開始から36週が経過したが,アルコール綿で消毒した探触子は一般の検査には特に支障はきたしていない.また探触子表面も特に変化はない.コインチェックにおいても超音波素子の欠損は認めない.ファントムを用いた実験では,コンベックス型探触子では超音波画像の輝度はほとんど変化していない.リニア型探触子では実験開始後からfocus部および浅部での超音波画像の輝度の低下を認めている.コントロール群においてはコンベックス型探触子リニア型探触子両者とも探触子表面の劣化,超音波素子の欠損,超音波の輝度の低下いずれも認めていない.
【考察】
コンベックス型探触子では超音波画像の輝度が変化していないにもかかわらず,リニア型探触子ではアルコール綿で拭いた群で超音波画像の輝度の低下を認めた.これはリニア型探触子はコンベックス型探触子と比較して振動子のピッチ間隔が非常に狭く,非常に振動子の厚みが少ない構造のため劣化に弱いためと考えられた.幸いコンベックス型探触子においてもリニア型探触子においても,一般の検査には特に支障はきたしていない.しかし今回の実験では現在のところ36週間の観察期間であるが,リニア型探触子にみられるごとく輝度が低下するとなると,より長期となる日常検査においては,十分に画像劣化の原因となるおそれがある.従って探触子に対する頻回のアルコール消毒は探触子性能になんらかの影響を及ぼすと考えられ,検査ごとのアルコールでの消毒は理想的な消毒法ではあるが,現実的でないと考えられる.紙でゲルを拭き取るのみでも細菌の伝播はかなり防ぐことができることから,1.一人の検査終了後には原則紙で拭き取るものとし,1日の検査終了後にはアルコール綿で消毒する.2.院内感染上問題になる菌を保有している患者や皮膚疾患のある患者の検査後,また免疫不全患者の検査前には探触子表面をアルコール綿で消毒するという方法が望ましいと考えられる.