Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
消化器:消化管

(S411)

体外式超音波が診断に有用であった放射線性腸炎の一例

Sonographic diagnosis of radiation enterocolitis -report of a case-

神崎 智子1, 畠 二郎2, 今村 祐志2, 筒井 英明1, 石井 学1, 眞鍋 紀明2, 鎌田 智有1, 山下 直人3, 楠 裕明3, 春間 賢1

Tomoko KANZAKI1, Jiro HATA2, Hiroshi IMAMURA2, Hideaki TSUTSUI1, Manabu ISHII1, Noriaki MANABE2, Tomoari KAMATA1, Naohito YAMASHITA3, Hiroaki KUSUNOKI3, Ken HARUMA1

1川崎医科大学付属病院食道・胃腸内科, 2川崎医科大学付属病院検査診断学, 3川崎医科大学付属病院総合診療科

1Department of Gastroenterology, Kawasaki Medical School Hospital, 2Department of Clinical pathology and Laboratory Medicine, Kawasaki Medical School Hospital, 3Department of General Medicine, Kawasaki Medical School Hospital

キーワード :

【はじめに】
放射線性腸炎は,照射後3カ月以内に出現する早期障害と,6か月から1年以上して発症する晩期障害に分けられる.晩期障害は腸管壁や周囲組織の動脈における内膜炎を機序として発生する非可逆的な変化であり,放射線照射野に一致した粘膜にびらん,潰瘍を形成し,病理学的には血管壁の肥厚,内腔の狭小化,閉塞と間質の著明な線維化が特徴的である.本疾患における体外式超音波像の詳細な報告は少なく,放射線腸炎と大腸癌再発との鑑別に体外式超音波が有用であった一例を経験したので報告する.
【症例】
70歳代男性.10年前に上行結腸癌(stageⅡ)のため右半結腸切除術,1年前に肺腺癌(stage Ⅳ)と,その第2腰椎への転移を診断され,化学療法(CDDP+CPT-11) 4コース,放射線療法(肺尖部に合計48Gy/16fr,第2腰椎に30Gy/10fr) が施行されている.放射線療法終了頃より下痢が出現し,200X年10月に当院外来を受診した.体外式超音波では,吻合部近傍の横行結腸に約4cmの範囲で内腔狭小化を伴い,層構造の温存された部分と消失した部分が混在した壁肥厚を認め,その肛門側に近接する小腸にも層構造の温存された限局性の壁肥厚が見られ,狭小部より口側の腸管は拡張していた.層構造の消失した部位はelastography上も硬かったが,内腔面,漿膜面ともに比較的平滑であり,通常の癌は否定的であった.壁肥厚が認められた部位は放射線療法が行われた部位に一致していることからも,放射線性腸炎が疑われた.下部消化管内視鏡検査では前回手術の吻合部は狭窄しており,その近傍は浮腫状で,異常血管が散見され,放射線性腸炎に合致する所見であったが,狭窄部の内視鏡通過は困難で,吻合部より口側は観察できなかった.PET/CT検査では,吻合部に一致する部位に集積を認めた.外来受診の約2週間後に狭窄部の精査・治療目的のため入院となった.血液生化学検査では軽度の貧血を認める以外に特記すべき異常は認めなかった.造影CT検査では,横行結腸の一部に造影効果を伴う腫瘤様の部位を認め,大腸癌の局所再発もしくは腹膜播種が疑われた.以上より狭窄の原因として,放射線性腸炎の線維化,あるいは大腸癌の局所再発が疑われ,狭窄部切除目的にて開腹手術を施行した.術中所見では,前回手術による回腸横行結腸吻合部に線維性の肥厚を伴う狭窄と,それより40cm口側の回腸にも同様の線維性肥厚を伴う狭窄を認め,それらの狭窄を含めて横行結腸,回腸切除を行った.手術標本には肉眼的狭窄が3カ所認められ,病理所見は狭窄部3カ所とも同様であり,その腸管壁には線維化,リンパ球主体の炎症細胞浸潤,肉芽組織や粘膜下層の血管壁肥厚などが認められた.異型細胞は認めなかった.以上より狭窄の原因は放射線性腸炎と診断された.
【考察】
放射線性腸炎は治療線量が45Gyを超えると発生を認め,60Gy以上になると発生率が上昇すると報告されている.体外式超音波では第2腰椎への肺癌転移部に対する照射野に一致した腸管壁肥厚を認め,放射線腸炎が考えられたが,今回,同部への治療線量は30Gyであったこともあり,臨床的に放射線性腸炎の可能性は低いことやCT検査の所見などからも,上行結腸癌の局所再発もしくは腹膜播種による腸管狭窄も疑われた.結果的には体外式超音波が病変の性状をより詳細に把握しており,最終診断と一致していた.画像上はスキルス大腸癌との鑑別が必ずしも容易ではないと思われたが,少なくとも通常の大腸癌や播種などとの鑑別は容易であり,本疾患の鑑別に有用と考えられた.