Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
消化器:肝臓

(S388)

門脈血流障害に伴う代償性変化(2)-門脈血流減少と肝腫瘤様変化−

Compensation for Portal Flow Disturbance (2): Hepatocellular Hypertrophy Result from a Substantial Reduction in Portal Flow

紺野 啓1, 鯉渕 晴美1, 藤井 康友1, 松永 宏明1, 高橋 純子2, 谷口 信行1, 石田 秀明3

Kei KONNO1, Harumi KOIBUCHI1, Yasutomo FUJII1, Hiroaki MATSUNAGA1, Junko TAKAHASHI2, Nobuyuki TANIGUCHI1, Hideaki ISHIDA3

1自治医科大学臨床検査医学, 2自治医科大学附属病院臨床検査部, 3秋田赤十字病院内科

1Department of Clinical Laboratory Medicine, Jichi Medical University School of Medicine, 2Clinical Laboratory, Jichi Medical University Hospital, 3Department of Internal Medicine, Red Cross Hospital Akita

キーワード :

【目的】
我々はこれまで,肝葉萎縮例やcavernous transformation of the portal vein(CTPV)例などの門脈血流障害例について詳細に検討し,門脈血流障害と肝葉萎縮との関連やCTPVの臨床像とその特徴など,門脈血流障害とそれらに対する代償性変化について明らかにしてきた.今回は,症例数の増加により,門脈血流障害とその代償性変化について若干の新たな知見が得られたため報告する.
【対象と方法】
USにて門脈本幹および肝内に明らかな門脈血流障害を認めた11例のうちのうち,慢性肝疾患および肝腫瘍例を除いた7例を対象に,1)門脈血流障害の分布,2)側副血行路を含む肝内血流の状態,3)肝葉萎縮・肥大等の肝実質の代償性変化を中心に検討した.
【結果】
1.4例(AT-III欠乏症1例,原因不明3例)ではCTPVの発達を認めたが,3例(静脈管開存症1例,肝内門脈-体循環短絡1例,肝外門脈閉塞症1例)ではCTPVの発達を認めなかった.
2.CTPV4例中3例で門脈血流障害部全体にCTPVの発達を認めたが,AT-III欠乏症例(1例)では門脈血流障害部の一部でCTPVの発達を認めない門脈血流障害の非代償部を認めた.これらの症例では肝内門脈血流は血流障害の非代償部も含めて全て求肝性であった.
3.CTPV例のうち,門脈血流障害の非代償部を有する症例(AT-III欠乏症例,1例)では,肝内に区域性の萎縮と肥大,および腫瘤性病変の発達を認めた.本例は門脈以外にも血行障害を伴っていた.
4.CTPV未発達例は全例,肝内門脈以外に著明な血行動態異常を伴っていた(静脈管開存症1例,21トリソミーおよびFallot4徴症1例,三尖弁閉鎖不全症1例).
5.CTPV未発達例では,全例で肝内門脈全体に著明な狭小化を認めた.門脈血流速度はいずれの症例でも著明に低下しており,時に逆流を認めた.
6.CTPV未発達の3例中2例で,肝内に腫瘤性病変の発達を認めた.1例は病理学的にFNHと診断され,他の1例も病理診断は未確定だが,臨床的に良性病変と考えられた.
【考察】
CTPV未発達の3例中2例では,肝内に良性腫瘤性病変を認めているが,これらの症例では肝全体で門脈血流の著明な減少を認めており,過去の報告例における指摘と同様,これら腫瘤性病変と門脈血流減少との間には強い関連が疑われる.また,AT-III欠乏症例にみられた門脈血流障害の非代償部の存在は,肝内にみられた区域性の萎縮と肥大とともに,肝内門脈血流減少を示す所見と考えられるが,本例における腫瘤性病変も,上記と同様,門脈血流減少に関連して生じたものと考えられる.
AT-III欠乏症例にみられた,1)肝内に生じた同じような門脈血行障害部でも,部位によりCTPVの発達を認める部分と認めない部分がある,2)肝に生じた萎縮および肥大とCTPVの発達には一定の関係が見られないという所見は,著明な門脈血流障害における代償性変化およびその機序を考えるうえで非常に興味深いが,これまで我々が得てきた知見とは一致しない新たな知見である.本例ではその背景にきわめて多彩な血行障害が存在し,門脈血流障害に対する代償性変化にもそれらが影響を与えているためとも考えられるが,症例数が少なく現時点では評価は困難である.更なる症例数の増加が期待される.