Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
消化器:肝臓

(S387)

肝内に観察される“くも状エコー”に関する考察

Cloud echoes in the liver

長沼 裕子1, 石田 秀明2, 花岡 明彦3, 上田 若奈3, 神山 直久4, 本郷 麻衣子1, 小丹 まゆみ5, 大嶋 聡子5, 伊藤 恵子6

Hiroko NAGANUMA1, Hideaki ISHIDA2, Akihiko HANAOKA3, Wakana UEDA3, Naohisa KAMIYAMA4, Maiko HONGO1, Mayumi KOTAN5, Satoko OHSHIMA5, Keiko ITOU6

1市立横手病院内科, 2秋田赤十字病院消化器科, 3日立メディコ超音波担当, 4東芝メディカルシステムズ株式会社超音波担当, 5市立横手病院臨床検査科, 6仙北組合病院臨床検査科

1Internal Medicine, Yokote Municipal Hospital, 2Gastroenterology, Akita Red Cross Hospital, 3Department of Ultrasound System Group, Hitachi Medical Systems Corporation, 4Department of Ultrasound System Group, Toshiba Medical Systems Corporation, 5Department of Medical Laboratory, Yokote Municipal Hospital, 6Department of Medical Laboratory, Senboku Kumiai Hsopital

キーワード :

【はじめに】
我々は大きな肝嚢胞内の限局した範囲に出現し,ある拡がりをもつような淡いエコーの集合体で,心拍動様の動きを呈するアーチファクトを,空に浮かんで刻々と変わる雲の様子になぞらえて,“くも状エコー”とし,第80回学術集会で報告した.くも状エコーは大きな肝嚢胞内以外でも,肝実質上でも観察される.今回我々は肝内で観察されるくも状エコーについて検討し,さらに機器に装備されているアーチファクトを軽減する方法も試みたので報告する.使用装置:日立社製EUB8500,東芝社製Aplio XV,Xario.
【対象と方法】
対象は2009年10,11月に肝内のくも状エコーの有無およびその特徴を観察した158例(平均年齢63歳,男女比1.04:1).くも状エコーが観察された頻度,出現部位,パルス繰り返し周波数(以下PRF)を変化させたときの状態を観察した.さらにそれぞれの機器に装備されている,視野深度を変えずにPRFを下げるPRF変更機能(EUB8500ではB-PRFで3段階に,AplioおよびXarioではIQenhancement(以下,IQe)で2段階に変更可能)を用いたとき消失または軽減するかどうか検討した.
【結果】
①日立社製EUB8500で観察した94例中36例,約38%に出現し,脂肪肝や肝硬変で減衰の強い15例では出現しなかった.肝実質の減衰が強くなくとも出現しない例が43例あった.出現部位は右肋間走査で中肝静脈周囲に出現し,視野深度を変えてPRFを変化させるとくも状エコーの深さが変化した.B-PRFで観察すると,PRFを一段階下げた状態でくも状エコーは浅い位置に表示され,さらに下げると消失した.②東芝社製Aplio XV,Xarioで観察した64例中59例,約92%に出現し,脂肪肝や肝硬変で減衰の強い5例では出現しなかった.出現部位は右肋間走査で中肝静脈周囲に出現し,視野深度を変えてPRFを変化させるとくも状エコーの深さが変化した.IQeを用いるとくも状エコーは軽減した.
【まとめと考察】
フレームレート,走査線密度,視野深度はトレードオフの関係にあるが,PRFと視野深度は,PRFが高いと視野深度が浅くなりPRFが低いと視野深度が深くなる関係にある.PRFが高い(肝臓を中心に深度を設定した)場合,視野深度より深部にある構造物(心臓)に到達し反射した音は次のフレーム時に受信され,実際存在するよりも浅い位置に表示される.これが累積多重によるアーチファクトであり,くも状エコーもこの現象のひとつである.くも状エコーは大きな肝嚢胞など無エコー領域に出現する場合認識されやすいが,肝実質上にも重なって表示され,認識される場合がある.くも状エコーの認識のされやすさにメーカーによる違いがあったが,理由の一つに信号の処理の仕方に違いがあるためと考えられた.脂肪肝や肝硬変などで減衰が強い場合や内臓の位置関係で条件がそろわない場合も認識されないと考えられた.PRFにより変化するということがくも状エコーの特徴であり,このアーチファクトが見られた場合は,①視野深度を深くしてPRFを下げる,②機器のPRF変更機能を用いてPRFを下げる,という方法でPRFを低くして観察することが有効である.
〔参考文献〕
1.長沼裕子,他:超音波医学第80回学術集会プログラム講演抄録集, 34, 2007, S429.