Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
循環器:症例3,その他

(S380)

ピモベンダンが有効であった心サルコードーシスによる難治性心不全の1例

Effectiveness of pimobendan for intractable heart failure caused by cardiac sarcoidosis. A case report.

辻 隆之, 川合 宏哉, 金子 明弘, 漁 恵子, 山脇 康平, 則定 加津子, 辰巳 和宏, 松本 賢亮, 大西 哲存

Takayuki TSUJI, Hiroya KAWAI, Akihiro KANEKO, Keiko RYOU, Kouhei YAMAWAKI, Kaduko NORISADA, Kazuhiro TATSUMI, Kensuke MATSUMOTO, Tetsuari OONISHI

神戸大学大学院医学研究科循環器内科

Division of Cardiovascular Medicine, Department of Internal Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine

キーワード :

症例は66歳女性.1999年に完全房室ブロックにてペースメーカ埋め込み術を施行され,その後は3回の心不全による入院を繰り返した.2004年に心筋生検にて心サルコイドーシスと診断され,ステロイド剤導入となった.2005年ごろより左室収縮能の低下(左室駆出率:EF25%)に伴い僧帽弁逆流が増悪し,心不全症状は悪化(NYHAⅢ)した.QRS幅200msecの心室内伝導障害を伴っていたため心臓再同期療法(CRT)が施行された.CRT後に左室収縮能は改善し(EF40%),僧帽弁逆流は軽度まで減少していたが,2008年頃より増悪し,2009年4月に尿路感染を契機に心不全の急性増悪(NYHAⅢ)を認め入院となった.入院時心拍数76bpm,血圧98/58mmHg,心尖部にて収縮期雑音Ⅱ/Ⅵを聴取した.心エコー図検査にて,中隔基部は菲薄化し無収縮を呈し,他の領域はび慢性に低収縮を認めた.僧帽弁は両弁尖共に心尖部側に高度に偏位し収縮期の接合が障害され,僧帽弁逆流を高度に認めた(逆流量85ml,逆流率67%).三尖弁逆流より求めた右室右房圧較差は60mmHgと高度肺高血圧を認めた.入院後,尿路感染の治療とともにフロセミドを40mg/日から60mg/日に増量し,ロサルタン25mg,メトプロロール40mg,スピロノラクトン25mgは同用量で継続した.自覚症状と胸部X線上の肺うっ血像はすみやかに改善したが,左室収縮力は変化なく,治療前と同程度の僧帽弁逆流が残存していた.左室収縮力の低下ならびに左室拡大に起因する機能性僧帽弁逆流と考え,病態を確認する目的で第12病日にドブタミン負荷心エコー図検査を施行した.10μg/kg/分のドブタミン負荷により左室壁運動の改善と僧帽弁逆流の減少を認めたため,心不全コントロール目的でピモベンダン5mg/日の内服を第13病日より開始した.第22病日に施行した心エコー図検査では,ドブタミン負荷時と同様に左室壁運動の改善と僧帽弁逆流の著明な減少を認め(逆流率;67%→33%),第27病日に軽快退院することができた.心サルコイドーシスは進行性の心筋障害を特徴とし,その予後はきわめて不良である.本症例もCRTおよび心不全に対する十分な薬物療法の下で心不全の急性増悪を来たした難治性心不全症例である.本症例は,心サルコイドーシスによる左室機能低下,左室拡大が機能性僧帽弁逆流を生じさせ,僧帽弁逆流がさらに左室機能を増悪させるという悪循環に陥った病態であった.一方,今回追加したピモベンダンは心筋収縮蛋白のカルシウム感受性増強とPDEⅢ阻害を特徴とし,心筋収縮力増強作用および血管拡張作用を併せ持つ経口強心薬である.本症例ではピモペンダンにより効果的に機能性僧帽弁逆流を伴う難治性心不全を治療することができた.その作用機序として,以下の2点を考える.すなわち,①強心作用による左室収縮力の改善,左室収縮末期容積の低下が,僧帽弁の接合改善および弁輪の縮小を導き,②血管拡張作用による後負荷の減少が,左室収縮力の増大および僧帽弁逆流の改善を導いた.低左心機能を合併した機能性僧帽弁逆流症は軽度であっても,予後増悪を招くことが報告されている.また現在,機能性僧帽弁逆流症に対する内科的治療に抵抗する難治性症例は多く,外科的手術治療に関してもいまだ確立した手技はない.今回我々は,高度機能性僧帽弁逆流を伴い重症心不全を呈する心サルコイドーシスに対し,ドブタミン負荷心エコー図検査にて病態を解明し,ピモベンダンを効果的に使用することができた.関連事項の文献的考察を加え報告する.