Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
循環器:症例3,その他

(S380)

心エコー図検査が診断の契機になった無症候性梅毒性大動脈炎の一例

A Case of Asymptomatic Syphilitic Aortitis Screened by Echocardiography

村田 幸栄1, 小野 史朗2, 國近 英樹2, 松本 勝彦1, 安田 優子1, 縄田 純子1

Sachie MURATA1, Shiro ONO2, Hideki KUNICHIKA2, Katsuhiko MATSUMOTO1, Yuko YASUDA1, Junko NAWATA1

1済生会山口総合病院検査部, 2済生会山口総合病院循環器内科

1Department of Clinical Laboratory, Saiseikai Yamaguchi General Hospital, 2Division of Cardiology, Saiseikai Yamaguchi General Hospital

キーワード :

耳鼻科術前心エコー図検査にて偶然発見された梅毒性大動脈炎の1症例を経験したので報告する.症例は45歳,男性.2009年5月頃献血で梅毒を指摘され,5月より当院皮膚科にて内服治療開始した.8月19日に耳鼻科術前(副鼻腔炎)検査で施行した心エコー図検査にて,左室径70mmと高度拡大,左室壁運動のびまん性低下・重症大動脈閉鎖不全症・腹部大動脈解離を認めたため,CT検査を施行.CT検査にて上行大動脈は68mmと著明に拡大し,遠位弓部大動脈から右総腸骨動脈にかけて二腔解離が認められ,解離は腹腔動脈や上腸間膜動脈起始部,右腎動脈起始部に及んでいた.血清検査では梅毒RPR定量32倍,TPHA定量10240倍であり,活動期梅毒性大動脈炎と診断された.大動脈弁及び胸部大動脈に対して手術適応と判断され,8月24日当院内科入院となり,ペニシリン系抗生物質(G2400万単位/日)の投与が2週間施行された.梅毒RPR定量:32倍→8倍.胸部症状なし.心臓カテーテル検査にて,冠動脈に狭窄は見られなかった.10月15日に当院外科にて大動脈弁置換,上行・弓部大動脈置換術が施行された.
【病理所見】
大動脈壁は厚く浮腫状で脆弱,一部慢性解離が疑われた.大動脈弁尖には炎症性の肥厚や癒合は認められなかった.外膜において小巣状散在性にあるいは栄養血管周囲にリンパ・形質細胞浸潤が軽度認められた.中膜から内膜にかけては粘液腫状変化がやや目立ち,EVG染色では弾性線維の断裂消失が目立ち,上行大動脈でより強い変性所見を認めた.粥状硬化の変化はなく,梅毒性大動脈炎と診断された.
【考察】
梅毒性大動脈炎は晩期梅毒病変で,罹患後10年以上経過し発症することが多い.好発部位は上行大動脈と弓部で,病理組織像では,外膜血管周囲の巨細胞を伴う慢性炎症性細胞浸潤と中膜弾性線維の著明な断裂と類粘液変性が特徴的である.(肉芽組織の形成による中膜破壊.)梅毒性大動脈炎に伴う大動脈弁閉鎖不全症は,梅毒による大動脈弁尖の炎症,弁輪拡大が原因とされるが,今回の症例では,ST-junctionの拡大によるものと考えられた.今回の症例を通じてAR症例では大動脈病変の有無にも注意し,心エコー図検査を行う必要性を改めて認識させられた.
【結語】
心エコー図検査が診断の契機となった稀な疾患である梅毒性大動脈炎を経験したので報告した.