Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
循環器:症例2

(S365)

保存的治療を行った孤立性上腸管膜動脈解離の1例

A Case of Isolated Dissection of the Superior Mesenteric Artery with Conservative Treatments

浅井 奎子, 大森 崇宏, 馬場 昭好

Keiko ASAI, Takahiro OHMORI, Akiyoshi BANBA

医療法人社団石鎚会田辺中央病院臨床検査科

of Clinical Laboratory, medical corporated group. Sekitetsukai Tanabe Central Hospital

キーワード :

【はじめに】
大動脈解離を伴わない孤立性上腸管膜動脈(superior mesenteric artery;以下SMA)解離は比較的稀な疾患であり,本邦では数十例の報告があるのみである.今回我々は,突然の腹痛にて発症し,保存的に治癒したSMA解離を1例経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
(使用装置)東芝社製SSA-770A(症例)45歳男性   
主訴)下腹部痛  既往歴)特になし  家族歴)特記すべき事なし生活習慣)喫煙20本/日 24年,アルコール機会飲酒程度  現病歴)平成21年6月9日 突然の下腹部痛を自覚.改善傾向ないため当院救急外来.精査,加療のため入院となった.現症)体温35.9℃,血圧110/60mmHg,HR70/min  意識清明,眼瞼結膜に貧血,黄疸みられず.腹部平坦,軟,臍周囲に圧痛あり.反跳痛,筋性防御なし,腸蠕動音正常.血管雑音なし.
(血液データ)白血球9400/μ,赤血球478万/μ,ヘモグロビン15.5g/dl,血小板36.9万/dl,CRP0.09mg/dl,PT活性107%,INR1.00
(腹部造影CT)平成21年6月9日 SMA脈起始部よりやや末梢で孤立性解離を認めた.偽腔は血栓で閉塞していた.
(腹部超音波検査)平成21年6月10日 SMA起始部12mmの位置より右腸骨動脈まで血管内部に線状エコーを認めた.偽腔は全長にわたり血栓充満,真腔は有意な狭小化もなく内腔には血流を認めた.偽腔部よりSMAは軽度拡大していたが瘤形成はなかった.腸管に虚血性変化はみられなかった.
【経過】
腹部所見は軽快し,腸管虚血を示唆する所見を認めなかったため,絶食,抗血小板薬内服にて経過観察となった.6月11日胃カメラ有意所見なし.同日より経口摂取を開始.6月15日大腸ファイバー有意所見なし.6月22日腹部造影CT上解離腔,真腔ともに著変なく,翌日退院となった.8月26日腹部超音波検査ではSMA拡大軽減,偽腔と内部血栓ともに縮小,不明瞭化していた.
【考察】
孤立性SMA解離は稀な疾患であり,病因不明で特発性と考えられるものも多いとされている.また,病態に関しても不明な点が多く,治療方針に関しては一定の見解が得られていない.腸管血流が保たれている場合には保存的治療が第一選択とされるが,虚血症状や腸管壊死を伴う場合は緊急手術の適応となる.保存的治療ではエビデンスは確立されていないが,抗凝固療法や抗血小板療法を行うことが多い.今回の症例では腸管虚血もなく,高血圧の既往もなかったため抗血小板療法にて経過観察をし得た.また診断には造影CTが最も有用とされているがSMA起始部付近は超音波検査でも観察可能な部位であり,偽腔・真腔の状態,血栓の性状,血流評価も十分可能であった.また,血管だけでなく,腹腔内全体の情報を把握することができ,腸管虚血の判断にも有用であった.
【結語】
稀な疾患である孤立性SMA解離を経験した.腸管虚血を伴う場合などは緊急手術の適応となり早期診断が重要となる.突然の腹痛など急性腹症の超音波検査時には常に念頭におくべき疾患の一つと考える.