Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
循環器:症例2

(S363)

症状を伴う徐脈で恒久ペースメーカ植え込みを必要とした右心原発悪性リンパ腫の2症例

Two cases with malignant lymphoma of the right heart, implanted the permanent pacemaker because of sick sinus syndrome (SSS):a case report

荒木 希衣子1, 太田 剛弘2, 谷川 崇1, 林 雄介1, 大塚 憲一郎1, 西山 裕善1, 津森 たから1, 紙森 公雄1, 柳 志郎1

Keiko ARAKI1, Takahiro OTA2, Takashi TANIGAWA1, Yusuke HAYASHI1, Kenichiro OTUKA1, Hiroyosi NISHIYAMA1, Takara TSUMORI1, Kimio KAMIMORI1, Shirou YANAGI1

1社会医療法人府中病院循環器科, 2社会医療法人府中病院生理機能検査室

1Division of Cardiology, Fuchu Hospital, 2Clinical Laboratory, Fuchu Hospital

キーワード :

【はじめに】
心臓原発悪性リンパ腫は稀な疾患であるが,心膜液貯留や心不全症状を主訴とし心エコー検査し心臓,心膜に限局した異常構造物を認め診断される事が多い.右心不全症状が強いものは腫瘍切除術後に化学療法が行われる.今回,洞性徐脈,洞不全症候群(SSS)を合併し化学療法前後にペースメーカ治療(PPI)が必要だった症例を経験した.右房原発の悪性リンパ腫では腫瘍の浸潤と考えられる伝導系障害が出現しPPIを考慮する場合があり報告する.
【症例 1】
73歳女性.主訴は全身倦怠感,洞性徐脈
【現病歴】
2009年9月,洞性徐脈と胸痛で近医より紹介.心拡大,胸水を認め心不全で入院.その後労作時呼吸苦,下腿浮腫など症状悪化したため心エコー検査したが異常所見認められず症状は徐脈によると考え,SSSに対しPPI施行した.退院3週後,浮腫を認め再度心エコーしたところ右房を占拠する異常構造物を認めた.入院後生検などで悪性リンパ腫と考えられた.右心不全高度のため外科的に切除した後,化学療法を予定した.
【経胸壁心エコー図所見等】
拡大した右房内に不均一で低輝度の構造物が充満し一部,三尖弁から右室に進展する血栓または腫瘍の存在が考えられ,カラードプラで制限された右室流入血流が認められた.心膜液は軽度で,IVCに血栓を疑った.胸部CTでは造影効果を受ける腫瘤とIVC血栓を認めた.
【入院後経過】
易疲労,洞性徐脈に対してPPI施行した.再入院後にIVCからの生検にて非ホジキン型悪性リンパ腫と診断,化学療法と考えたが呼吸苦,倦怠感が増悪し右房内腫瘤による低心拍出量状態が進行し,全身転移認めなかったため外科的摘除とした.現在血液内科にて化学療法(R-CHOP)施行している.
【症例 2】
76歳男性.主訴は呼吸苦
【現病歴】
2009年10月,臥位で呼吸苦あり近医受診し多量の心膜液貯留でドレナージ施行.細胞診にて悪性リンパ腫を認め,治療目的に当院転院となった.
【経胸壁心エコー図所見等】
左心系に異常ないが,右房外側から右室にかけて輝度不均一,辺縁不整の構造物(最大部24×68mm)が右房を取り巻くように圧排し心外膜からの腫瘍と考えられたが一部心筋内浸潤も疑われた.心膜液は中等度度で,タンポナーデ状態は改善していた.胸部MRIでは右房右室内,大動脈壁への浸潤も疑われた.
【入院後経過】
生検にて大細胞性B細胞型リンパ腫と診断されR-CHOP開始したが腫瘍は拡大傾向でRCOPに変更.その後の化学療法変更にも腫瘍の縮小を認めず,4月中旬に意識消失と痙攣あり5.2秒の洞停止が記録され腫瘍の浸潤が疑われた.化学療法継続のためPPI施行し血行動態は改善した.しかし化学療法に反応せず6月24日に死亡した.
【まとめ】
心臓原発性の悪性リンパ腫は稀な心臓原発腫瘍のなかで更に5〜7%と報告されるが心膜液貯留,右心不全症状,呼吸苦などを主訴に心エコー検査で発見される事が多い.特に右心系の腫瘍では輝度が低い事があり流入血流の観察も含め注意深い検索が必要である.症例1のように伝導障害,特にSSSが発見の契機になる例が報告されており,SSSの原因精査のため右心系の描出に注意が必要である.症例1では腫瘍摘除術により血行動態安定し化学療法可能であった.症例2では化学療法続行できたが奏効しなかった.悪性リンパ腫の化学療法著効例も報告されており高度SSSを合併した場合はPPIも積極的に検討すべきある.