Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
基礎:組織弾性(3D,新手法)

(S350)

超音波放射力による生体の弾性率測定

Measurement of Elastic Properties of Tissue by Acoustic Radiation Force

田原 麻梨江

Marie TABARU

日立製作所中央研究所

Central Research Laboratory, Hitachi, Ltd.

キーワード :

【背景】
近年,断層像による診断の他,生体の機能診断が発展しつつある.エラストグラフィ(弾性率測定)は機能測定の一つであり,試料を加圧しその応答から硬さを測定する.また,強力な集束超音波を放射し,その放射力によって組織に力を与える方法(以下,放射力エラスト)は新たな計測手法として注目されている.放射力により組織は集束超音波の伝搬方向と同じ方向に変位し,同時にずり波が励起される.パルスエコー法を用いて,ずり波が伝搬する方向に沿った複数の位置でずり波の振幅値を検出して,ずり波速度を推定し,さらに硬さを算出する.
【目的】
本研究では,まず放射力エラストによる異なる硬さ試料の識別の可能性を検討する.また,脂肪は融点が低く,硬さが温度に依存することに着目して,温度と硬さの関係について検討する.
【実験】
まず,硬さの異なる生体試料(豚レバー,フォアグラ(脂肪肝を模擬))の2種類の方法(放射力エラスト,および静的応力−歪み特性)で測定し,両結果を比較した.測定では,ずり波発生用の集束型トランスデューサ,試料,ずり波検知用プローブを図1(a)のように配置し,集束超音波(周波数2 MHz,超音波強度1 kW/cm2)を1 ms照射した.照射後,ずり波の励起地点をr =0とする伝搬方向に沿った複数の位置rにおいて,ずり波振幅を検出した(図1(b)).各位置rにおける,最大振幅値となる時間Tmaxを検出してずり波速度を推定した(図1(c)).豚レバーとフォアグラのずり波速度はそれぞれ0.66m/s,1.8 m/sであり,ずり波音速の違いが検出された.さらに,ずり波速度からヤング率を算出し,静的応力−歪み特性で測定した結果と比較すると,両者の差異は約8%であった.次に,温度を21℃と37℃に制御しながら豚レバーとフォアグラの硬さを測定した.本実験条件下では,豚レバーの温度依存性はほとんど見られなかったが,フォアグラは温度が低いほど硬さが小さくなった.
【結論】
放射力エラストで硬さの異なる2種類の試料の識別が可能であることがわかった.また,豚レバーに比べてフォアグラは温度による硬さの変化が大きいことがわかった.今後,脂肪肝の一部の組織の硬さを温度制御で変えた際に,全体の硬さがどのように影響されるかを調べ,組織構造と硬さの関係を検討する.