Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
基礎:エネルギー・治療

(S343)

相変化ナノ液滴を核とするキャビテーション作用を用いたがん治療

Tumor therapy with cavitational effects induced with phase-change nanodroplet

川畑 健一1, 浅見 玲衣1, 吉川 秀樹1, 東 隆1, 梅村 晋一郎2

Ken-Ichi KAWABATA1, Rei ASAMI1, Hideki YOSHIKAWA1, Takashi AZUMA1, Shin-Ichiro UMEMURA2

1日立製作所中央研究所ライフサイエンス研究センタ, 2東北大学工学部

1Life Science Research Center, Central Research Laboratory, Hitachi, Ltd.,, 2Faculty of Engeneering, Tohoku University

キーワード :

【緒言】
現在,PET のみならず,MRI などの既存の画像診断装置と組合せて用いる組織選択性造影剤および造影システムの研究・開発が盛んである.超音波診断装置は手術室などに持ち込めるほど小型で,かつリアルタイムな画像化が可能であり,超音波を用いた組織選択的なイメージングは治療支援などへの利用価値が高いと考えられる.特に,超音波は診断のみならず治療への適用も可能であり,例えば腫瘍を可視化し,その部位を選択的に治療する診断・治療統合システムが開発できれば,早期新診断・治療システムにつながると期待される.我々は,腫瘍診断・治療を目的とし,マイクロバブルの高い造影能とナノ微粒子の高い体内選択性を両立するため,体内投与時はナノサイズの液滴で,超音波パルスにより目的部位のみで気化しマイクロバブルを生成する造影剤および造影システムの開発を行っている.本造影剤(相変化ナノ液滴)は複数の液体パーフルオロカーボンを含むことを特徴とするサブミクロンサイズのエマルションであり,過熱状態で存在し,超音波パルスにより過熱状態を解消することで本来の気体に戻るという機序によりマイクロバブルを生成する.マイクロバブル造影剤が加熱凝固治療およびキャビテーション治療用の増感剤として効果があることが知られていることから,本相変化ナノ液滴から生成したマイクロバブルもまた治療用増感剤特に部位選択性の高い治療増感剤としての応用が期待される.今回,この相変化ナノ液滴より生成するマイクロバブルを用いたキャビテーション生成およびその治療応用に関する基礎検討を行った.
【実験】
単焦点の球面状超音波トランスデューサ(直径: 48mm F 数: 1)から1.1,3.3MHzの超音波を照射して実験を行った.超音波の圧力は,相変化用が最大負圧5-10 MPa,治療用が0.5-1 MPa であった.また,対象として相変化ナノ液滴を混合したポリアクリルアミドゲルおよび静脈注射されたマウスの腫瘍を用いた.照射は超音波診断装置の探触子での観察と同期して,また収束ハイドロフォンで信号を取得しながら行った.また,相変化ナノ液滴はパーフルオロペンタン(沸点:29℃)とパーフルオロヘキサン(沸点:56℃)とを体積比で1:1 に混合しリン脂質と混合して20 MPa で高圧乳化して直径約400nm にしたものを用いた.
【結果と考察】
ゲル中の総変化ナノ液滴に1.1 MHz 2.4 MPaでの超音波照射により相変化を生じ,さらに連続的により弱い連続波超音波を照射することによりキャビテーションが生じるかどうかを収束ハイドロフォンにより液滴からの音響信号測定により調べた.0.25 MPa以上でキャビテーションに特有の分調波信号が得られることがわかった.相変化用超音波を照射しない場合には2.2 MPa以上が必要であったことから,相変化により生じたマイクロバブルによりキャビテーションに必要な圧力が約9倍低下したことになる.分調波が得られる際には超音波診断画像上輝度変化が見られることがわかった.さらに,腫瘍を対象として同様の実験を行い,約1 MPaの超音波照射によりファントムと同様分調波の生成,画像上の変化および腫瘍組織のダメージが確認できた.今回の検討により,相変化ナノ液滴を用いたキャビテーション作用に基づく腫瘍治療の可能性が示唆された.
【謝辞】
本研究の一部は,医療福祉機器研究開発制度の一環として,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託により行われたものである.