Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
基礎:エネルギー・治療

(S341)

下肢静脈瘤治療のための集束超音波による血管閉塞手法の開発

Development of Vein Occluding Method for the Lower Extremity Varicose Vein Treatment

牛嶋 裕之1, 妹尾 直彦1, 鈴木 潤2, 葭仲 潔1, 出口 順夫2, 高木 周1, 宮田 哲郎2, 松本 洋一郎1

Hiroyuki USHIJIMA1, Naohiko SENOO1, Jun SUZUKI2, Kiyoshi YOSHINAKA1, Juno DEGUCHI2, Shu TAKAGI1, Tetsuro MIYATA2, Yoichiro MATSUMOTO1

1東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻, 2東京大学医学部血管外科

1Matsumoto-Takagi Laboratory The Department of Mechanical Engineering, School of Engineering, The University of Tokyo, 2The University of Tokyo, Vascular Surgery, Department of Surgery

キーワード :

【目的】
下肢静脈瘤は,下肢の静脈の弁が壊れることにより,血管が拡張し,蛇行する病気である.下肢静脈瘤を患うと,拡張した血管が目立ち,見た目が悪い上,脚に慢性的な痒みや痛み,だるさを感じるようになる.一度弁の壊れた静脈は回復不能であるため,下肢静脈瘤の治療は,基本的に弁が壊れた静脈を,引き抜いたり,線維化によって消失させたり,結紮して血流を止めたりすることで,血管としての機能を失わせることによって行われる.現在,下肢静脈瘤に対しては,ストリッピング手術やレーザー治療等や高位結紮術等の治療が一般的に行われているが,いずれも切開を必要とする治療法であり,侵襲性が高く,治療後に手術痕を残したり,下肢静脈瘤によってできた潰瘍が悪化したりすることが問題となっている.したがって,切開を必要とせずに下肢静脈瘤を治療する治療手法の開発が望まれる.そこで,本研究では集束超音波を用いてそれを実現することを最終的な目的とする.集束超音波を用いた下肢静脈瘤治療は,下記のしくみで静脈瘤を生じた血管を除去することで行う.1.静脈瘤のできた下肢静脈や,穿通枝を焦点として,体外から集束超音波を照射する.2.集束超音波の焦点領域が圧力振動により加熱される.3.加熱により血管内膜が変性し,血管壁が収縮する.4.血管壁同士が癒着し,血管が閉塞される.5.閉塞した血管が線維化し,消失する.我々は集束超音波を用いた下肢静脈瘤治療手法の開発のための前段階の研究として,集束超音波を用いて切開なしに血管閉塞が可能であるかについて検証を行った.
【方法】
ウサギの外頸静脈を対象として集束超音波を照射し,実験を行った.超音波を照射するトランスデューサは,共振周波数1.7MHz,外径100mm,焦点距離70mmのPZT(ジルコン酸チタン酸バリウム)圧電素子製の集束型トランスデューサを用いた.トランスデューサの中央の直径60mmの穴に,リニア型超音波診断プローブを挿入し,このプローブでウサギの体内を観ながら,集束超音波の焦点と対象の血管との位置合わせを行った.集束超音波を生体内へ照射する際は,しばしば集束超音波による皮膚の熱傷が問題となる.そのため,皮膚を熱傷させずに血管閉塞を行うための,集束超音波の強度と照射時間や,ウサギの皮膚処理の条件を決定するため,まずウサギの腹部に集束超音波を照射し,実験を行った.次に,腹部の実験により決定した条件でウサギの外頸静脈に集束超音波を照射し,対象血管の閉塞を試みた.
【結果】
ウサギの腹部への照射実験により,血管閉塞に用いる超音波は,その焦点での超音波エネルギーを900W/cm^2,照射時間を20secと決定した.また,超音波照射の前には,熱傷を防ぐため,ウサギの体毛をバリカンで剃った後,除毛クリームで完全に体毛を除去することが必要であると分かった.また,皮膚と血管との間にヒアルロン酸を7mm程度の厚みで皮下注射しておくことで,熱傷の危険性を低くできることが分かった.上記の条件で,実際にウサギの外頸静脈に対して,装置によって対象の血管を圧迫しながら,集束超音波の照射を行った.その結果,外頸静脈の超音波照射部分の閉塞に成功した.
【考察】
現在,下肢静脈瘤を短期間で治療する場合,切開を伴なう手術の他に方法がなく,非侵襲な下肢静脈瘤治療手法の開発が望まれている.今回の我々の実験により,集束超音波を用いた生体内の血管の閉塞が可能であることが実証され,集束超音波を用いた下肢静脈瘤治療の実現可能性が示された.