Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
基礎:組織弾性(血管,心筋)

(S335)

左室固有振動数を用いた心筋弾性率推定手法の形状依存性

Shape Dependence of Left Ventricular Eigen Frequency for Elasticity Estimation

田中 智彦, 東 隆, 橋場 邦夫

Tomohiko TANAKA, Takashi AZUMA, Kunio HASHIBA

日立製作所中央研究所

Central Research Laboratory, Hitachi Ltd.

キーワード :

【背景】
心機能の低下は心臓内血圧の上昇と密接にかかわっていることから,心内圧や心筋弾性率は心機能確定診断を行う重要な指標である.しかし,これらの指標を非侵襲的に計測することが容易ではない.例えば,心内圧計測が可能な実用的技術はカテーテルに限られるが,心臓病早期診断用途や術後の経過観察用途では,その侵襲性によりカテーテルを適用できないケースが多い.これらの指標の非侵襲的計測は大きな診断的な価値を有することから,これまでに多くの研究がなされてきた.Honda et al. (Am J Physiol Heart Circ Physiol 266: H881, 1994)は,左室を球殻と近似し,球殻の固有振動数と硬さの物理関係則(Advani and Lee, J. Sound Vib. 12:453, 1970))を用いることで,計測された左室固有振動数から心筋弾性率を推定する手法を提案した.この手法は一定の精度で弾性率推定が可能であった一方で,Honda et al. (Medical Engineering & Physics, 20:485, 1998)は,ヒトの左室は球殻より楕円体に近いことを指摘しており,この球殻近似が誤差の原因であると推察している.ここで,球殻の固有振動数と硬さの関係則はAdvani-Lee方程式と呼ばれ,数値計算によって初めて計算できる複雑方程式である.また,Advani-Lee方程式は球殻運動のみを表す物理則であるため,楕円体などの挙動を記述することはできない.しかし,心筋弾性率の計測を行う上で,形状に依存した誤差の範囲を知ることは極めて重要である.現状,形状による固有振動数の変化を定量的に調べた研究は未だない.
【目的】
本研究では,形状による固有振動数の変化を調べる.特に代表的なケースとして,球殻と楕円殻を比較し,その振動数の変化を定量的に調べた.
【方法】
本研究では,球殻の固有振動数と,楕円体殻の固有振動数を比較する.比較方法として,数値的シミュレーションを用いた.数値シミュレーションは構造物の振動解析が可能な有限要素法を選択し,市販ソフトウェアであるANSYS Multiphysicsを用いた.固有自由振動を計算する際にはBlock Lanczos法を用いた.
【結果】
シミュレーション結果より,形状による固有振動数の変化は大きく,この効果を考慮する必要があることが明らかとなった.一例として,左室と同程度の大きさの楕円体殻の弾性率を80kPaと設定し,得られた固有振動数から球殻近似を用いて弾性率を推定した場合,弾性率は約20kPaと低く見積もられてしまう.このように,固有振動数による心筋弾性率の推定を行う場合,形状による効果を考慮する必要があることが明らかとなった.