Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

一般口演
基礎:生体作用

(S322)

超音波診断装置と微小気泡によるシスプラチンの抗腫瘍効果の増強

Enhancement of the antitumor effect of cisplatin by using a diagnostic ultrasound machine and microbubbles

佐々木 東1, 中村 健介1, 村上 正紘1, KUMARA Bandula1, 大田 寛1, 山﨑 真大1, 工藤 信樹2, 滝口 満喜1

Noboru SASAKI1, Kensuke NAKAMURA1, Masahiro MURAKAMI1, Bandula KUMARA1, Hiroshi OHTA1, Masahiro YAMASAKI1, Nobuki KUDO2, Mitsuyoshi TAKIGUCHI1

1北海道大学大学院獣医学研究科獣医内科学教室, 2北海道大学大学院情報科学研究科生命人間情報科学専攻

1Laboratory of Veterinary Internal Medicine, Graduate School of Veterinary Medicine, Hokkaido University, 2Biological Instrumentation and Measurements, Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University

キーワード :

【目的】
超音波造影剤は獣医学領域においても悪性腫瘍の診断に使われている.一方,超音波による治療ではHIFUが人医学領域で臨床応用されており,新たな治療法としてsonoporationも期待されている.既にさまざまな超音波造影剤を用いた連続波,バースト波もしくはパルス波によるsonoporationで抗癌剤の効果増強が示されている.今回,我々は診断と治療の融合を目指し,超音波診断装置と超音波造影剤の併用による抗癌剤の効果増強効果をin vitroで検討した.
【方法】
腫瘍細胞として犬甲状腺癌由来株細胞(CTAC),微小気泡にsonazoidを0.02%(2×105 個/ml),抗癌剤にはシスプラチン(CDDP)を1 μg/mlで使用した.まず,96穴プレートにCTACを2×104 個/wellで播いて8時間単層培養し,ウェル内をCDDPと微小気泡を懸濁した培養液で満たした.次に,気泡が混入しないように注意しながらプレート全体をパラフィルムでシールし,sonazoidを細胞に接着させるために裏返して0〜 10分間インキュベーションした.その後,超音波診断装置の造影対応リニアプローブを造影モードに設定し,中心周波数2.5 MHz,表示深度2 cm,焦点深度1 cm,FR = 48 fps,MI = 1.33の条件で1〜90秒間,超音波を照射した.照射後,直ちにPBSで2回洗浄して新鮮な培地を加えて培養し,照射24時間後にトリパンブルー色素排除法によって細胞生存率を評価した.また,細胞膜透過性のない物質の細胞内への封入を確認するため,FITC-dextran(MW 4,000)を2 mg/mlで用いて同様の実験を行い,共焦点顕微鏡での観察ならびにフローサイトメトリーでの細胞数測定を行った.
【結果】
超音波照射時間を一定にして裏返し後のインキュベーション時間を検討したところ,インキュベーションが5分以上では生存率が有意に低下した.一方,インキュベーション時間を5分に固定して超音波照射時間を変化させると,統計学的な有意差は生じなかったが3秒以下の照射は5秒以上の照射に比べて生存率が高めの傾向にあった.インキュベーション時間を5分かつ超音波照射時間を60秒に設定し,超音波および微小気泡,CDDPの有無で8群に分けて検討したところ,3つを併用した群の生存率は62%と他の7群に比較して有意に低下した.また,同じ条件下でFITC-dextranを用いたところ,FITC-dextranは細胞内に存在することが確認され,その封入率は15%だった.
【考察】
微小気泡が細胞の近傍に存在する状況では,超音波診断装置による超音波照射でCDDPの抗腫瘍効果を増強できることが示された.この増強効果は微小気泡の破裂によって細胞内にCDDPが封入されたためと考えられる.さらに,微小気泡の破裂は超音波照射の初期の段階で起こっており,照射時間を長くしても新たな微小気泡の出現と破裂による効果の増強はほぼないと予想される.今回の実験はin vitroでの検討であり,加えて細胞と振動子面が近接しており減衰が極めて少なかった,ウェルの底面で超音波が反射し定在波が生じ得た,MI値が非常に高かったという条件下で行われた.現在,in vivoでの実験を計画中であるが,今回のin vitroの条件をどのように再現するかが非常に重要になると考えられる.