Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

奨励賞演題
消化器

(S317)

Sonazoid造影超音波を用いたびまん性肝疾患実質血流の検討:動脈化の意義について

Tissue characterization of the liver diseases with using contrast enhanced ultrasound.

高山 竜司, 和久井 紀貴, 住野 泰清

Ryuuji TAKAYAMA, Noritaka WAKUI, Yasukiyo SUMINO

東邦大学医療センター大森病院消化器内科

Gastroenterology and Hepatology, Toho University Ohmori Medical Center

キーワード :

肝に流入する門脈血は肝臓にとって大切な栄養源であるが,それが何らかの原因により大きく低下しても,動脈との二重支配と肝の大きな予備能に支えられ,肝障害を惹起することは稀である.しかし,低圧系血流であるため,肝の病変には影響を受けやすく,ゆえに門脈血流を詳細に解析することにより,様々な肝病変・病態の変化を把握できる可能性がある.そこで造影超音波やFFT解析で検討したところ,健常肝の肝表近傍実質栄養血流は圧倒的に門脈優位であり,それが慢性肝疾患のステージ進行とともに動脈と門脈のバランスが崩れ,肝硬変にいたると完全に動脈優位(動脈化)となることを臨床の現場でも明示できることが判明し,本会でも報告した.そのメカニズムについては,肝線維化に伴う門脈血流低下に対する代償機転とされてきた.しかし,急性肝炎など線維化のない疾患でも動脈化が見られるため,線維化・門脈血流低下以外の何らかのメカニズムが関与していることが強く想定された.そこで我々は動脈と門脈の血流を順次観察可能な造影早期の染影動態をさらに詳細に検討した.
【対象】
HCV慢性肝炎F1A1;5例,HCV肝硬変;18例,肝外門脈閉塞;1例,急性肝炎HAV;1例,HBV;4例,原発性胆汁性肝硬変(PBC);14例.
【方法】
装置は東芝Aplio XG,探触子は中心周波数3.75 MHzのコンベックス型,条件はMI値0.22〜0.29,フレームレートは18 fps,focusは6〜8cmに調節した.Sonazoidは型どおりに調整した懸濁液を0.015mL/kg,肘静脈からボーラス注入し,さらに生理的食塩水10mlを後押し注入した.画像は,Sonazoid®静注直後から30秒間,すなわちfirst passの動画をrowデータのかたちで記録し,検査終了後に専用のプログラムで解析した.なお,本研究は施設倫理委員会の承認のもとに行われた.
【結果】
健常例:本検討ではこれまでの経験も踏まえHCV慢性肝炎F1A1をほぼ健常な対照とした.これらの症例では肘静脈からボーラス注入したSonazoid®はまず腎実質を一気に染影し,それに少し遅れて肝実質内の太い動脈枝が染影される.この動脈からは実質内にパラパラとこぼれる程度に気泡が広がる.3〜5秒遅れて門脈が染影され始め,それに引き続き肝実質全体に気泡のperfusionがおこり充満する.肝硬変:腎実質が染影されると同時に肝内動脈枝が染影され,引き続き肝実質への気泡のperfusionが動脈枝から始まる.3〜5秒後に門脈が染影されるが,そこからのperfusionは目立たない.まさに実質血流の動脈化である.肝外門脈閉塞:背景肝病変がないにもかかわらず肝硬変とほぼ同等の実質血流の動脈化が見られた.急性肝炎:急性期には肝硬変同様の動脈化,回復期には健常対照と同様の門脈優位を呈した.PBC:肝硬変にいたる前から,HCV肝硬変と同様の動脈化をきたした.
【まとめ】
これまでの我々の検討では,単に実質染影の速さだけで動脈化と推測・判定していたが,詳細な観察の結果,実際に実質灌流血の動脈化が起こっていることが明らかとなった.そのメカニズムに関してはいまだ明らかでないが,門脈血流低下に対する代償機転だけで説明するのは片手落ちと考える.肝疾患の病態診断,門亢症のメカニズムと治療などを考える上で興味深い所見と考え報告する.