岩野 弘幸¹, 山田 聡¹, 佐藤 陽子¹, 西野 久雄², 横山 しのぶ², 加賀 早苗², 西田 睦², 小野塚 久夫³, 三神 大世³, 筒井 裕之¹

Hiroyuki IWANO¹, Satoshi YAMADA¹, Yoko SATO¹, Hisao NISHINO², Shinobu YOKOYAMA², Sanae KAGA², Mutsumi NISHIDA², Hisao ONOZUKA³, Taisei MIKAMI³, Hiroyuki TSUTSUI¹

¹北海道大学大学院循環病態内科学, ²北海道大学病院検査・輸血部, ³北海道大学大学院保健科学研究院

¹Department of Cardiovascular Medicine, Hokkaido University Graduate School of Medicine, ²Division of Clinical Laboratory and Transfusion Medicine, Hokkaido University Hospital, ³Faculty of Health Sciences, Hokkaido University

キーワード :

【背景】
左室収縮同期不全の評価に用いられている局所心筋収縮の時間差の指標には，左室全体の収縮機能は反映されない．心臓再同期療法（CRT）の効果予測のためには，本来は非協調運動により損なわれる左室全体の機能を評価すべきである．そこで，心筋ストレインレート（SR）を用いた新たな指標を考案し，CRTの前後での収縮機能の変化との関連を検討した．
【方法】
対象は，当院でCRTを施行した症例のうち，良好な心エコー画像が得られた19例（57±12歳，男性13例）．CRT前と後の2週間以内に東芝Aplioを用い，左室駆出率（EF），組織ドプラ法によるYu index，四腔像と短軸像での二次元スペックルトラッキング法による長軸および円周方向のストレイン（St）ピーク時相の標準偏差（St-SD）を計測した．断面内6領域のSRの各時相における平均値をglobal SRとし，｛（領域ごとのSR収縮期最大値の平均値）-（global SR収縮期最大値）｝を算出し，strain rate discoordination index（SRDI）とした．SRDIは，各領域のSR最大値の時相が揃った場合に見込まれるglobal SRの値と実際の値との差であり，非協調運動により損なわれる収縮機能を表す．St-SD，SRDIとも長軸方向と円周方向の値を平均した．
【結果】
CRT前のYu index，St-SD，SRDIはそれぞれ48±10 ms，108±43 ms，0.16±0.08 s^-1であった．CRTによりEFは25±6％から29±6％に増加した．EF変化量とCRT前のQRS幅，Yu index，St-SDとの間には相関はみられなかったが，SRDIとの間には有意な正相関が認められた（r＝0.56，p＝0.01）．CRT後にEFが5％以上改善した症例をCRT反応群とした場合，QRS幅，Yu index，St-SDは反応群（10例）と非反応群（9例）との間に差はみられなかったが，SRDIは反応群で有意に高値であった（0.21±0.07 vs 0.12±0.07 s^-1, p＜0.01）．反応群予測のためのReceiver operating characteristic曲線の曲線下面積はYu indexで0.48，St-SDで0.64，SRDIで0.86であり（図），カットオフ値を0.166 s^-1とした場合のSRDIによる反応群予測成績は，感度80％，特異度78％であった．
【結論】
新しい指標SRDIは，心筋運動の時間差の指標より密接にCRT前後における左室駆出率の変化と関連した．このことから，SRDIは非協調運動により損なわれる左室全体の収縮機能を表す指標と考えられ，今後の臨床応用が期待される．