岡野 智子¹, 海老原 文¹, 竹中 克¹, 木村 公一², 宇野 漢成³, 福田 延昭¹, 安藤 治郎⁴, 藤田 英雄⁵, 永井 良三², 矢冨 裕¹

Tomoko OKANO¹, Aya EBIHARA¹, Katsu TAKENAKA¹, Koichi KIMURA², Kansei UNO³, Nobuaki FUKUDA¹, Jiro ANDO⁴, Hideo FUJITA⁵, Ryozo NAGAI², Yutaka YATOMI¹

¹東京大学医学部附属病院検査部, ²東京大学医学部附属病院循環器内科, ³東京大学医学部附属病院コンピュータ画像診断学/予防医学, ⁴東京大学医学部附属病院集中治療部, ⁵東京大学医学部附属病院健康空間情報講座

¹Department of Clinical Laboratory, the University of Tokyo Hospital, ²Department of Cardiovascular Medecine, the University of Tokyo Hospital, ³Department of Computational Diagnostic Radiology and Preventive Medecine, the University of Tokyo Hospital, ⁴Department of Intensive Care Unit, the University of Tokyo Hospital, ⁵Department of Ubiquitous Health Informatics, the University of Tokyo Hospital

キーワード :

【背景】
拡張早期僧帽弁通過血流速度（E）とtissue Doppler imaging （TDI）による拡張早期僧帽弁輪速度との比（E/E’_VEL-TDI）は左室拡張能の評価指標として広く使用されている．しかしTDIには角度依存性があり，健常例と異常例において値の重複が認められる等の限界が指摘されている．
2D speckle tracking echo （STE）は角度依存性が少ないため，本法の弁輪速度はTDI指標より優れた診断能を示す可能性がある．また，STEによるglobal strain rateも左室全体の挙動をより正確に反映する指標として期待される．我々は左室充満圧評価におけるTDI指標とSTE指標の有用性を比較検討した．
【方法】
右心カテでの平均肺動脈楔入圧（PCWP）が高値（＞15mmHg）であった連続25例（59±20歳）を対象（患者群）として圧測定と心エコーを同時施行した．各指標は心尖部四腔断面で計測した．超音波装置Vivid7 （GE社製）上でTDIを用い中隔と側壁の僧帽弁輪速度（E’_VEL-TDI）の平均値からE/E’_VEL-TDIを算出した．STE解析は，EchoPac （GE社製）を用い，中隔と側壁の弁輪心筋速度（E’_VEL-STE）の平均値からE/E’ _VEL-STEを，四腔断面での左室global longitudinal strain rate「左室壁全長の伸縮速度」の拡張早期ピーク値 （E’_SR-STE）からE/E’_SR-STEを算出した．左室充満圧評価での各指標の有用性を，健常例20例（58±12歳）を比較対象（健常群）として検討した．
【結果】
（表1）各指標はいずれも患者群で有意に高値を示した．患者群と健常群でのデータの重なりはE/E’ _SR-STEが最も少なかった（図1）．ROC解析でE/E’_VEL-TDIとE/E’_VEL-STEの診断能は同等であったが，E/E’_SR-STEはより優れた診断能を示した（図2）．Tetheringにより左室全体の機能を反映する弁輪速度はSTEを用いてもTDIを超える有用性を示さなかったが，より直接的に左室心筋全体の挙動を反映しうるglobal strain rateを用いることで，左室充満圧をより鋭敏に評価できることが示唆された．
【結論】
STEを用いて算出されたE/E’_SR-STEは従来のTDI指標より有用性の高い新指標となり得る．