Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

奨励賞演題
基礎

(S308)

低強度パルス超音波によるDNA損傷とシグナル伝達

Ultrasound-induced DNA damage and signal transductions

古澤 之裕1, 藤原 美定1, 趙 慶利1, ALI HASSAN Mariame1, 小川 良平1, 田渕 圭章2, 高崎 一朗2, 近藤 隆1

Yukihiro FURUSAWA1, Yoshisada FUJIWARA1, Qing-Li ZHAO1, Mariame ALI HASSAN1, Ryohei OGAWA1, Yoshiaki TABUCHI2, Ichiro TAKASAKI2, Takashi KONDO1

1富山大学大学院医学薬学研究部(医学)放射線基礎医学講座, 2富山大学生命科学先端研究センターゲノム機能解析分野

1University of Toyama, Department of Radiological Sciences, Graduate School of Medicine and Pharmaceutical Science,, 2University of Toyama, Division of Molecular Genetics Research, Life Science Research Center,

キーワード :

【目的】
超音波は診断のみでなく,機械的作用や熱的作用を利用した治療への応用が注目されている.最近,温熱ストレスによる細胞死誘導のメカニズムの一つとしてリン酸化ヒストンH2AX(γH2AX)フォーカス形成を指標としたDNA損傷(二本鎖切断)の誘発が報告されている.従って,温度上昇が十分な超音波照射では熱作用によりDNA損傷を誘発することが考えられるが,超音波によるDNA損傷とその応答については十分に解明されているとは言えない.以前我々は,リンパ腫細胞株において,温度上昇を抑制した条件における低強度パルス超音波が遺伝子発現変化やアポトーシスを誘導し,更にはγH2AX陽性細胞を増加させることを発見したが,γH2AXはアポトーシスシグナルの活性化によっても誘導されることが報告されており,細胞内DNA損傷を反映しているか否かについては明らかでなかった.本研究では非熱的な超音波によるDNA損傷の誘発および応答の分子機構についてアポトーシスに着目して検討を行った.
【材料と方法】
ヒトリンパ腫細胞株,U937,Jurkat,Molt-4,HL60を用い,超音波照射条件として,周波数1 MHz,PRF 100 Hz,DF 10%,強度0.1‐0.4 W/cm2を用いた.γH2AXを特異的抗体による免疫染色法,フローサイトメトリー法,ウエスタンブロット法にて検討した.DNA損傷を中性コメット法による電気泳動度を指標として,また修復タンパクの核局在を免疫染色法にて検討した.ヒドロキシラジカルの産生を5,5-ジメチル-1-ピロリンN-オキシドを用いてスピン捕捉法にて,細胞内活性酸素をDCFH-DA,HPFを用いたフローサイトメトリー法にて検討した.細胞死をトリパンブルー染色法にて,アポトーシスを切断型カスパーゼ3の同定,断片化DNAの検出により検討した.DNA損傷応答の阻害剤としてATM阻害剤であるKu55933,DNA-PK阻害剤であるNu7026を用いた.
【結果】
超音波は放射線や温熱と同様,処理後30分の細胞において照射強度・時間依存的にγH2AXフォーカスを誘導した.また中性コメットアッセイ法によりDNA損傷(二本鎖切断)が検出された.形態学的にγH2AXフォーカスとDNA修復関連分子NBS1,DNA-PKcsとの共局在が観察された.超音波により誘導されるγH2AXの染色パターンは形態的にTRAIL処理細胞と異なること,またアポトーシスシグナルの活性化前にγH2AXが誘導されることが明らかとなった.キャビテーション崩壊の温度を下げるN2Oガス条件下での超音波照射ではγH2AXフォーカスは観察されず,細胞死も有意に抑制された.一方でDMSOやNACを用いて超音波による細胞内外のROSの産生を抑制しても,γH2AXの有意な抑制は観察されなかった.γH2AXはKu55933,Nu7026の前処理により抑制され,野生型p53を持つMolt-4細胞においてはKu55933によりp53のリン酸化とカスパーゼ3の活性化が抑制された.一方でNu7026はp53の有無によらず,Akt/PKBのリン酸化を抑制し,アポトーシス誘導を促進した.
【結論】
温度上昇を伴わない低強度パルス超音波が,キャビテーションによる機械的作用を主因としてγH2AXフォーカス形成に示唆されるDNA二本鎖切断を引き起こすこと,また,超音波によりDNA損傷下流のシグナル伝達経路が活性化し,DNA修復シグナルやアポトーシスシグナルの活性化が起こることが明らかとなった.以上,超音波によるDNA損傷とその応答機構の一端を示した.