Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

特別企画
特別企画2
肝腫瘍の超音波診断基準の検証

(S295)

「肝腫瘍の超音波診断基準の検証」ドプラ所見

Evaluation of ultrasonographic diagnostic criteria for hepatic tumors :Doppler findings

森 秀明

Hideaki MORI

杏林大学医学部第三内科

The Third Department of Internal Medicine, Kyorin University School of Medicine

キーワード :

【はじめに】
1988年11月に日本超音波医学会医用超音波診断基準に関する委員会より公示された「肝腫瘤の超音波診断基準」の改訂が2010年に行われた.その内訳は存在診断と質的診断からなっており,質的診断に関してはBモード所見に加えて,ドプラ所見と造影所見が新たに追加された.今回の発表ではドプラ所見について報告する.
【代表的な肝腫瘤のドプラ所見】
今回の改訂では代表的な肝腫瘤として肝細胞癌,肝内胆管癌(胆管細胞癌),転移性肝腫瘍,肝細胞腺腫,肝血管腫,限局性結節性過形成(FNH)の6疾患を対象とした.
ドプラ所見としては腫瘤内の血流の多寡,血管の走行,血流性状(拍動波,定常波),付加所見について検討した.
a)肝細胞癌
肝細胞癌は腫瘍の大きさや形状により異なった血流パターンを示すため,Bモード所見の細分類(2cm以下の結節型,2cmを越える結節型,塊状型)別に見た血流所見の検討を行った.2cm以下の結節型では門脈血が腫瘤に流入するため定常性血流のみを認めることが多く,異型結節との鑑別は困難なことが多い.2cmを越える結節型や塊状型では腫瘤の辺縁部を取り囲み,内部に向かう拍動性の血流シグナル(basket pattern)と腫瘤から流出する定常波が認められる.また時にA-P shuntや門脈腫瘍塞栓を合併することがあり,ドプラ所見はその診断に有用である.
b)肝内胆管癌(胆管細胞癌)
肝内胆管癌は肉眼的に腫瘤形成型,胆管浸潤型,肝内胆管発育型に分類される.腫瘤形成型では腫瘤の周囲に圧排された血管が認められ,腫瘤内部には既存の血管の残存がみられることがある.
c)転移性肝腫瘍
転移性肝腫瘍には上皮性と非上皮性があるが,今回の改訂では主に胃癌や大腸癌などの上皮性腫瘍のドプラ所見につき検討した.腫瘤の辺縁部に拍動性血流シグナルが認められ,腫瘤内部には既存の血管の残存がみられることがある.原発巣が多血性の場合は肝転移巣も血流が豊富なことが多い.
d)肝細胞腺腫
腫瘤の境界部から腫瘤を取り囲むように内部に細い血管が流入する.
e)肝血管腫
本症は多血性の腫瘤であるにもかかわらず,その流速が緩徐であるため腫瘤内に血流シグナルがみられないことが多いが,時に腫瘤の辺縁部に点状の血流シグナルが認められることがある.まれにA-P shuntを伴った豊富な血流シグナルを認める例(high flow hemangioma)もある.
f)限局性結節性過形成(FNH)
腫瘤の中心部に向かう拍動流と,中心部から辺縁に放射状に広がる拍動性の血流シグナル(spoke-wheel pattern)がみられる.
【ドプラ検査のポイントと注意点】
肝腫瘤のドプラ像を観察する際は,ある一断面だけで観察するのではなく,プローブを扇動走査しボリュームをもった断面で観察し,血流の多寡や血管の走行を判定する必要がある.腫瘤の血流は低流速のことが多いため流速レンジを低めに設定すること,Bモードゲインをやや低めに設定すること,カラーゲインはノイズが出ない範囲で最大のゲインに調節することがポイントである.またパワードプラの方がカラードプラと比べてS/Nが高いため,より低流速の血流まで描出することができる.一方カラードプラやパルスドプラでは血流方向を観察することができる利点がある.
腫瘤の血流シグナルはBモード画像のシグナルと比べて微弱であり,深部にいくに従って検出されにくくなるため,深部に存在する病変の血流の評価の際には注意する必要がある.また肝左葉の腫瘤では心拍動の影響によるアーチファクトにより血流評価が困難なことが多いため注意を要する.