Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

ワークショップ
ワークショップ7
インターベンションと超音波法

(S288)

心臓再同期療法と非同期指標; J-CRTから再考する

CRT and Dyssynchrony Paramaters; Review from J-CRT

瀬尾 由広, 酒巻 文子, 山本 昌良, 渥美 安紀子, 針村 佳江, 町野 智子, 川村  龍, 石津 智子, 青沼 和隆

Yoshihiro SEO, Fumiko SAKAMAKI, Masayoshi YAMAMOTO, Akiko ATSUMI, Yoshie HARIMURA, Tomoko MACHINO, Ryou KAWAMURA, Tomoko ISHIZU, Kazutaka AONUMA

筑波大学大学院人間総合科学研究科循環器内科

Cardiovascular Division, Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba

キーワード :

【背景】
 重症心不全症例に対する心臓再同期療法(CRT)の登場によって,心臓超音波医学に心臓非同期の評価法に関する分野が加わった.多くの指標が報告されるなか,2008年に発表されたPredictors of Response to CRT (PROSPECT) trialにより,心エコー指標が単独でCRTレスポンダーを予測することは困難であるという衝撃的な結果が報告された1.一方,本邦においても同様の試験であるthe Japan Cardiac Resynchronization Therapy Registry Trial (J-CRT)が行われ,JCS2010で最終結果を報告した.本研究は国内18施設から227症例がエントリされた.Endpointである6か月後の左室収縮末期容量15%以上の減少を予測する心エコー指標はないというPROSPECTと同様の結果となった.心エコー指標では,Mモード法で計測されるSPWMD2と,組織ドプラ法で計測する中隔(S)と側壁(L)の時間差(T-SL)3のいずれかが基準を満たした場合に非同期ありとすると,CRTレスポンダーの独立規定因子となった.その他に左脚ブロックの有無,術前心不全の重症度も規定因子であり,CRTのレスポンダーは複雑な因子に規定される.一方,SPWMDとT-SLは,典型的な左脚ブロックでは容易に観察される中隔と側壁の非同期を検出する指標である.これらの指標が規定因子となったことは,CRTが中隔と側壁間の電気的非同期を修正する手段であることから当然の結果と考えられる.しかし,心電図の左脚ブロックよりも心エコーによる機械的同期不全の指標が単独で不十分であるのは,現在の定義で計測するSPWMDおよびT-SLに問題があることを示唆する.本研究は,この2指標について再考し,CRTレスポンダー予測に有用な計測方法を提唱する.
【SPWMD】
 SPWMDは時相に関係なく中隔および後壁の最大変位部位かつ最も時間が短いポイント間で計測すると定義されている.これに従えば左脚ブロックであっても,後壁より遅延した中隔の変位点が選ばれる症例が経験される.この場合,左脚ブロックにみられる中隔の収縮から自由壁側へと伝播する非同期パターンに合致しない.また,Mモード法は解析部位が前壁中隔と後壁の2極間に限定されていることも問題である.我々は,解析領域を任意方向M-mode法にて拡大させ,中隔第一変位点を代表点とする左脚ブロック症例での非同期の検出について検討した4.その結果,従来法で計測できた症例が76%であったのに対し,この方法では92%に改善した.また,スペックルトラッキング法での非同期指標との相関を比較すると,従来法がR2=0.39であったのに対し,我々の方法はR2=0.86と高い一致率を示した.
【T-SL】
 T-SLは駆出時間内だけを解析対象としているが,左室非同期は前駆出時間や拡張早期にまで壁運動が観察される.また,心筋速度のみの解析では収縮しているか,受動的に変異しているのかは区別できない.我々は左脚ブロック症例において,strain-rateと速度を対比させて組織ドプラの速度曲線を解析した5.その結果,中隔の収縮開始は85%の症例で前駆出時間内に認められ,側壁はほとんどの症例で駆出時間内で認められた.第一収縮に由来する速度を使った修正T-SLで当施設でのCRTレスポンダー予測を再検すると,従来のT-SLの感度が65%,特異度50%,正診率 56%,AUC0.60であったのに対し,修正T-SLでは感度が89%,特異度75%,正診率 80%,AUC0.89と改善された.
【総括】
 CRT適応決定に広く使用されているSPWMDとT-SLについて,従来の測定方法やその定義を再考する必要があると考えられる.
【参考文献】
1.Chung E, et al. Results of the Predictors of Response to CRT (PROSPECT) Trial. Circulation. 2008;117:2608-2616.
2.Pitzalis MV, et al. Cardiac resynchronization therapy tailored by echocardiographic evaluation of ventricular asynchrony. J Am Coll Cardiol. 2002;40:1615-1622.
3.Bax JJ, et al. Left ventricular dyssynchrony predicts benefit of cardiac resynchronization therapy in patients with end-stage heart failure before pacemaker implantation. Am J Cardiol. 2003; 92: 1238-1240.
4.酒巻 文子ら.左室内非同期検出における任意方向 Mモード法の有用性. J Cardiol Jpn Ed Vol.4No. 1; 20-28: 2009
5.Seo Y, et al. Analysis of the origin of cardiac wall motion that constitutes myocardial velocity-time curves in patients with left bundle branch block. J Am Soc Echocardiogr. 2009; 22 :331