Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

ワークショップ
ワークショップ7
インターベンションと超音波法

(S286)

Ischemic Memoryによる心筋虚血診断

Diagnosis and Application of Myocardial Ischemic Memory

石井 克尚

Katsuhisa ISHII

関西電力病院循環器内科

Kansai Electric Power Hospital, Department of Cardiology

キーワード :

 心筋虚血に伴う心筋灌流障害が生じると心筋の代謝障害に始まり続いて拡張能障害,収縮能障害がおこる.その後電気的生理学的変化として心電図変化があらわれ,最後に胸痛という一連の現象がおこる.これがいわゆるischemic cascadeである.この心筋虚血早期に出現する壁運動異常は虚血検出における鋭敏な指標である.さらに心筋虚血による左室機能障害には拡張障害と収縮障害が存在し,一般的には拡張障害が収縮障害に先行して生じる.しかしながら虚血による心筋障害では拡張障害の後に速やかに収縮障害が生じるため,臨床の現場では急性の心筋虚血が進行中において拡張障害のみを検出することは困難である.逆に冠血流が回復し虚血が改善した場合に生じる現象をreverse ischemic cascadeと呼ぶが,近年この虚血による収縮障害が改善した後に遷延するpostischemic diastolic stunningが報告されている.DilsizianらはBIMPP心筋シンチ検査をもちい,運動負荷後に左室虚血部位の脂肪酸代謝異常が30時間以上にわたり持続している事を報告し,ischemic memoryという概念を提唱した.
 我々は,労作性狭心症患者において冠動脈形成術中(PCI)および終了後に2Dスペックル・トラッキング心エコー図を用いて左室局所の収縮・拡張運動を観察した.バルーンインフレーション20秒後において左室虚血領域においてpeak systolic strainに有意な低下は認めないが,すでに拡張障害が観察された.バルーンインフレーション50秒後では著明なpeak systolic strainの低下を認めた.即ち,虚血発作時において拡張能障害が収縮能障害に先んじて観察され2Dスペックル・トラッキング心エコー図を用いることによりPCI中にischemic cascadeが非侵襲的に観察可能であった.一方バルーンデフレーション2分後では虚血領域において反応性充血のためpeak systolic strainは前値を凌駕したが,同時に虚血後の拡張障害が観察された.peak systolic strainはバルーンデフレーション30分後にはほぼ前値に戻ったが,虚血領域の心尖部において拡張障害は24時間後も持続し,ischemic memoryが観察された.