Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

ワークショップ
ワークショップ6
びまん性肝疾患のUltrasound Functional Imaging

(S279)

Transient elastographyを用いた肝硬度と,ウイルス肝炎における発癌とについての検討

Evaluation of liver stiffness as measured by transient elastography and cancerogenesis in patients with viral hepatitis.

玉野 正也, 小嶋 和夫, 秋間 崇, 橋本 敬, 前田 知津, 平石 秀幸

Masaya TAMANO, Kazuo KOJIMA, Takashi AKIMA, Takashi HASHIMOTO, Chizu MAEDA, Hideyuki HIRAISHI

獨協医科大学消化器内科

Gastroenterology, Dokkyo Medical University

キーワード :

【目的】
ウイルス肝炎は,その進展過程で肝の線維化を伴う.肝の線維化は予備能の低下をもたらすのみでなく,肝細胞癌(HCC)の発癌にも大きく寄与している.肝繊維化診断のゴールドスタンダードが肝生検による病理組織診であることに異論はないが,侵襲的であること,またサンプリングエラーや病理医間の診断の相違などの問題がある.Transient elastographyはパルス振動波の組織内伝播速度を超音波画像解析法により測定するものであり,肝臓の硬度が弾性値kPa(キロパスカル)として定量的に数値化される.Transient elastographyは非侵襲的であり,本法を用いた肝硬度測定と組織学的な肝線維化が良好に相関することは知られている.今回はウイルス肝炎症例における肝硬度とHCC発癌との関係を検討した.
【方法】
ウイルス肝炎162例を対象とした.対象の内訳は,HBV 24例,HCV 137例,HBV+HCV 1例であった.背景肝の臨床診断は,正常肝または脂肪肝が9例,慢性肝炎が101例,肝硬変が52例であった.これらの対象者に対して午前中絶食で行う超音波検査の後にtransient elastographyを施行した.得られた肝硬度とHCCの有無について検討した.肝硬度以外に,ALT,総ビリルビン,アルブミン,血小板,AFP,PIVKA-IIの値についても検討を行った.また,HCC非合併例については,その後の発癌の有無を前向きに追跡し検討した.本臨床研究は,獨協医科大学生命倫理委員会の承認の後,患者本人への文書による説明と合意のもとに施行された.
【成績】
Transient elastographyによる測定は全例で,安全かつ短時間に施行し得た.肝硬度(Mean±SE)は,正常肝または脂肪肝9例では6.5±1.2 kPa,慢性肝炎 101例では9.4±0.9 kPa,肝硬変52例では25.4±2.2 kPaと肝病変の進展に伴って高値を呈した (p<0.0001).Transient elastography 施行時にHCCを合併していた35例の肝硬度は26.7±3.5 kPa,HCC非合併例127例では11.0±0.7 kPaであり,HCC合併例の肝硬度は有意に高値であった (P<0.0001).HCC合併例では,血小板が有意に低く (p<0.0001),AFPが有意に高かった (p=0.0099)が,AST,総ビリルビン,アルブミン,PIVKA-IIに有意差は認めなかった.HCC非合併例127例中,6ヶ月以上経過観察し得たのは108例であり,うち10例にHCCの新たな発癌を認めた.肝硬度,ALT,総ビリルビン,アルブミン,血小板,AFP,PIVKA-IIを多変量解析すると,肝硬度(15kPa以上)のみが発癌に寄与する独立因子として有意差を認めた.
【結論】
Transient elastographyによる肝硬度測定は,血小板値,AFP値と同等に,ウイルス肝炎症例におけるHCCスクリーニングに有用である.また,肝硬度はHCC発癌を予測する因子としてきわめて有用であると思われた.