Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

ワークショップ
ワークショップ5
用語の誤用

(S275)

基礎領域における用語の誤用

Misuse of engineering technical terms in medical ultrasound

蜂屋 弘之

Hiroyuki HACHIYA

東京工業大学理工学研究科

Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Institute of Technology

キーワード :

【はじめに】
基礎分野の用語の誤用は,近い概念が誤って用いられる場合,技術の進歩とともに用語の意味が変化している場合,本質的な意味が十分把握されていない場合,分野間の相違や歴史的な経緯から用語が混乱して用いられている場合,などがある.誤解して使われることの多い用語の例をいくつか示す.
【誤用の例】
(1) 音の強さと音響出力
音の強さ(acoustic intensity)は音響強度,音響インテンシティー,超音波強度とも呼ばれることがあるが,超音波の安全性を議論する上で,非常に重要な定量的概念である.この用語は,「媒質内の単位面積を単位時間に通過する超音波のエネルギー」と定義され,単位は[W/m2]または[W/cm2]である.この用語と類似の意味をもつ用語として音響出力があり,誤った使い方をされることがある.音響出力は,「音源が放射する単位時間当たりの音波のエネルギー」と定義され,単位は[W(ワット)]= [J/s]である.音の強さはある場所の1秒間に通過する音波のエネルギーであるが,これを音波の放射体の周囲全体にわたって積分したものが音響出力である.同じ音響出力の超音波プローブがあったとしても,音波の広がり方によって,音の強さは異なることになる.
(2) 固有音響インピーダンスと音響インピーダンス
誤解しやすい用語として,固有音響インピーダンスと音響インピーダンスがあり,ここできちんと定義を示しておきたい.媒質の境界での超音波の反射の程度は,境界で接している二つの媒質の密度と音速の積によって決まる.この密度と音速の積は,媒質固有の特性量で,固有音響インピーダンスと呼ばれ,音響特性インピーダンス,媒質の特性インピーダンスなどとも呼ばれる.単位は[Pa・s/m]である.また,慣用的に「音響インピーダンス」と略して用いられることがあるが,この用語の使用には注意が必要である.「音響インピーダンス」は,本来「媒質のある断面の音圧と体積速度の比」として定義され,単位は[Pa・s/m3]である.少々わかりにくい概念であるが,単純な波動の一つである球面波であれば,中心からの距離によって変化する.さらに,「比音響インピーダンス」という用語もあり,これは「音場内の1点における音圧と粒子速度の比」で,単位は [Pa・s/m] であり,固有音響インピーダンスの単位と一致する.また,均一媒質を伝搬する平面波上の1点における比音響インピーダンスは,媒質の固有音響インピーダンスに等しい.このように,超音波の反射の理解に重要な「固有音響インピーダンス」は単純に「音響インピーダンス」と略すと違う概念を示すことになり,注意が必要である.
(3) 伝搬と伝播
誤用ではないが,日本における用語の使用の複雑さ示す例として「伝搬」と「伝播」を紹介する.音波が媒質中を伝わっていくことを伝搬(でんぱん)という.この用語「伝搬」は,「propagation」 を表す用語で,様々な分野で使われている.波動の分野では,この「propagation」を,分野によって伝搬(でんぱん)と伝播(でんぱ)で表記している.これには,各分野の事情と歴史的な経緯が関係している.物理分野では伝播も用いられているが,電波と音波の工学分野では伝搬が用いられる.これは伝播が「でんぱん」と誤読されやすいことに加え,伝播を用いると電波伝播(でんぱでんぱ)のように読みの重複が重要な用語の区別をあいまいにするなどの事情から,伝搬が用いられることになったとされている.
【おわりに】
用語を正確に使用するには,学会web上の用語検索システムなども参照し,用語の本質的な意味について理解を深めることが重要である.