Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

ワークショップ
ワークショップ5
用語の誤用

(S273)

「総胆管」は,本当に総胆管なのか?

Is “common bile duct” actually the common bile duct?

水口 安則

Yasunori MIZUGUCHI

国立がん研究センター中央病院

National Cancer Reseach Center Hospital

キーワード :

 超音波診断学上,他の画像診断との適切な整合性のために,胆道各部位の名称は胆道癌取扱い規約で定義されている肝外胆道系の区分に従っていると考える.周知のごとく取扱い規約によれば,肝外胆管は,肝門部胆管,上部胆管,中部胆管および下部胆管に区分されている.解説として,「一般に,胆管・胆嚢管合流部を指標とする区分法が多いが,実際には合流部が確認できない症例が多いこと,解剖学的に合流部の高さはかなり下方に偏位している症例が多いことなどから,本規約では胆管の区分として総肝管,総胆管という解剖学的名称は用いない(抜粋)」とされている.
 通常の経腹走査による超音波検査で,胆嚢管の拡張所見がない場合,胆嚢管または胆管・胆嚢管合流部を同定する作業にはそれなりの時間と努力が必要であり,同部位またはその近傍に明らかな異常所見がない場合は,その必要性や重要性は薄いと考える.よって肝外胆管を上部・中部・下部胆管に区分した取扱い規約の定義は,実用的であり実際の超音波検査で用いることができる.
 しかしながら,現実にはカンファランスや学会・研究会などでのディスカッション,または超音波レポートの記載上,胆管・胆嚢管合流部を確認していないにも関わらず,安易に「総胆管」や「CBD(common bile duct)」という用語を用いる場面を多く経験する.そこで,他施設の超音波報告書で肝外胆管をどのように表現しているのか検討してみた.対象は,当院を受診し超音波検査を施行した症例のうち,診療情報提供書に超音波報告書が添付されていた147施設分である.期間は2002年11月〜2010年2月.検査者または診断医が記載した用語ではなく,報告書にデフォルトで記載または印刷設定されている名称を調べた.結果は,147施設中,「総胆管,CBDまたはcommon bile duct」の記載は,88施設(59.9%),「胆管,bile ductまたはbiliary tract」32施設(21.8%),「肝外胆管またはextrahepatic duct」26施設(17.7%),「その他 」1施設(0.7%)であった.約6割の施設で「総胆管」の名称が使用されていた.
 これは,「用語が通常示す概念とは異なった使われ方をした場合」に相当すると考える.誰かが「総胆管」と発言または記載したときには,胆管・胆嚢管合流部を同定した上での真の解剖学的意味での「総胆管」と言っているのか,単に「肝外胆管」の意味で用いているのか,提示された画像などで自ずから「翻訳」する必要があり,そうでなければディスカッションがかみ合わなくなることを危惧する.
 肝外胆管を「総胆管」と表現することは,深刻な誤用か,許容しうる誤用なのでおおらかに対処すべきか,各人によって解釈が異なるかもしれない.しかし,筆者は深刻な誤用と考える.無用のすれ違いを回避するためにも「総胆管」を安易に使用すべきでなく,「肝外胆管」と表現すべきであると考える.当然のことながら,胆管・胆嚢管合流部を確認できた場合は,総肝管や総胆管の用語を併用して所見を詳述する必要がある.
文献
日本胆道外科研究会編:胆道癌取扱い規約 第5版.金原出版,2003.