Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

ワークショップ
ワークショップ3
血管エコーにおけるドプラ法の有用性

(S266)

深部静脈における最大逆流速度は深部静脈血栓後遺症発症の独立予測因子である

High peak reflux velocity in the proximal deep veins is a strong predictor of advanced post-thrombotic sequelae

八巻 隆

Takashi YAMAKI

東京女子医科大学形成外科

Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Tokyo Women’s Medical University

キーワード :

【目的】
深部静脈血栓症(DVT)の晩期合併症である深部静脈血栓後遺症(PTS)の予測因子を検討した報告は少ない.特に経過観察におけるパラ・メータでの予測に関する報告はほとんど存在しないのが現状である.そこで今回われわれは,初回DVT発症から長期観察を行った症例を対象に,弁不全の観点から比較的早期にPTSの予測が可能かどうか検討したので報告する.
【対象】
DVT発症から3年間以上の経過観察を行った121例を対象とした.最終的な臨床的重症度はCEAP分類に従って,no PTS群(C0-3, Es, As, d, p, Pr, o)およびPTS群 C1-C3(C4-6, Es, As, d, p, Pr, o)に分類した.
【方法】
DVT発症時の危険因子として年齢,性別,body mass index(BMI),血栓素因および悪性腫瘍・うっ血性心不全・ホルモン補充療法・寝たきり・炎症性腸疾患・外傷・手術・DVTの既往・腎不全の有無を評価した.またDVTの急性期離脱後,定期的な経過観察においてデュプレックス・スキャンで静脈閉塞の有無を精査するとともに,逆流時間(s),最大逆流速度(cm s-1),平均逆流速度(cm s-1)および逆流量(mL)を計測することにより,逆流評価を行った.逆流の診断基準は逆流時間>0.5sとした.今回の検討では,DVT発症後6ヶ月目のデータを検討した.
【成績】
PTSは25例(20.7%)に認めた.DVT発症時の年齢は40歳代が有意にPTSの発症率が高かった(p=0.001).一方,BMI>30の症例に有意にPTSの発症例が多かった(p=0.007)が,その他の危険因子は両群間に有意差を認めなかった.初回血栓の存在部位は,腸骨−大腿領域の症例が有意にPTSの発症が多かった(p<0.0001).DVT発症後6ヶ月目のデュプレックス・スキャン所見では,深部静脈の閉塞および逆流併存症例に有意にPTSの発症が高かった(p<0.0001).さらに静脈ごとにデュプレックス・スキャンのパラ・メータを検討した結果,膝窩静脈の最大逆流速度および平均逆流速度が有意にPTS群で高いことが判明した(それぞれp=0.0008,0.030).その他の部位および他のパラ・メータは両群間での有意差を認めなかった.ROC curves analysisを用い,6ヶ月目におけるカット・オフ値を求め多変量解析を行ったところ,膝窩静脈における最大逆流速度>29.7cm s-1が最も臨床的重症度への寄与が強かった(OR 13.67,95% CI 4.09-45.65,p<0.0001).同様に平均逆流速度>8.6cm s-1も臨床的重症度への寄与が強かった(OR 4.36,95% CI 1.53-12.39,p=0.006).初回DVT発症時は,年齢40歳代(OR 8.95,95% CI 1.54-52.15,p=0.015),BMI>30(OR 5.75,95% CI 1.46-23.34,p=0.014),腸骨−大腿静脈DVT(OR 3.44,95% CI 1.38-8.58,p=0.008)がそれぞれPTSの独立予測因子と考えられた.
【結論】
DVT発症後6ヶ月目において,膝窩静脈の最大逆流速度>29.7cm s-1および平均逆流速度>8.6cm s-1はPTS発症の独立予測因子であることが示唆された.初回DVT発症時の危険因子のみでなく,経過フォローにおけるデュプレックス・スキャンのパラ・メータでのPTS予測も可能と考えられた.