Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション13
ソノグラファーのレポート: どこまで診断しどこまで書くべきか

(S247)

腹部領域におけるレポートの書き方について

How to write a abdominal ultrasound report

森 秀明

Hideaki MORI

杏林大学医学部第3内科

The Third Department of Internal Medicine, Kyorin University School of Medicine

キーワード :

医師の超音波離れが問題になっており,現在,日常臨床の場で行われている超音波検査の多くは臨床検査技師に委ねられている.超音波検査は主観的な検査法であり施行者が最も多くの情報を把握していること,また結果がリアルタイムにわかるため,本来であれば検査を施行した者が診断するのが理想であるが,現状では臨床検査技師は自身が施行した超音波検査の所見を記載する事はできるが,診断名をつけることはできない.そのような状況下においてどのようなレポートを書けば検査を依頼した医師に正しい情報が伝わるかを,腹部領域を中心に報告する.
①レポートを記載する上で最も大切なことは第3者が理解できるような鮮明な画像を記録することである.
②正しい用語やサインを用い,できるだけ略号は用いない.
③検査を依頼した医師の知りたい情報に的確に答えられるレポートを作成する.その為には疾患の概念や病態生理を理解する必要がある.たとえば肝機能障害の検査では,肝臓に異常所見がみられなくてもただ「異常なし」とするのではなく,「肝縁鋭,表面平滑,肝腫大や萎縮なし,肝実質均一,肝内脈管構造異常なし,腫瘤なし」というように肝の形態的な変化の有無も含めて記載する.陰性所見であっても記載することにより,術者が観察したことが依頼した医師にも確認できる.また消化管ガスなどの影響で描出不良な部位がある場合は,「右肋骨弓下走査で肝S8が描出不良」といったようにどこが検査不十分であったかを記載する.
④胃癌の術前検査であれば胃壁の肥厚,肝転移や卵巣転移,腹腔内リンパ節の腫大,腹水貯留などの有無についても記載する.消化管の腫瘍では高周波プローブを用いた層構造の検討もレポートに記載できれば理想的である.また膵管癌であれば,周囲の脈管の浸潤の有無を記載することが手術適応などの治療方針を決定する上で重要な情報になる.
⑤「下腹部に腫瘤触知」といった情報があれば,肝・胆・膵・腎のみならず消化管や腹部血管,泌尿器科・婦人科領域の所見も記載すべきであり,異常所見が無くても,ただ「異常なし」とするのではなく,「指摘された部位に腫瘤は描出されない」といった記載をすることが望ましい.
⑥腹部超音波検査に先行して腹部CTやMRIなどの検査が行われている場合はそれらの検査結果を参考にして,異なる点があれば,「CTでは描出されていないが,肝S6に5mm大の低エコー腫瘤を認める」,「腹部CTでは右腎に5mm大の嚢胞が認められるが,腹部超音波検査では描出されない」といったように対比した所見を記載する.
⑦腫瘤の経過観察の場合は,大きさの変化を前回の検査結果と比較するのはもちろんだが,必要に応じてそれ以前の検査結果も参照してレポートに記載する.
⑧肝細胞癌のようにラジオ波焼灼療法や肝動脈塞栓術後の経過観察例では腫瘤の大きさの変化のみでなく,カラードプラや造影超音波検査による血流情報も加味して治療効果が判定できるレポートを作成する.
⑨特徴的な所見はシェーマを作成する習慣をつける.
以上が腹部領域におけるレポートの記載上の注意点である.冒頭で述べたとおり現状では技師が診断名をつけられないが,検査を依頼した医師が必ずしも超音波検査を専門にしているわけではないので,参考所見として記載した方がよいと考える.またより臨床のニーズに対応したレポートを作成するためには,自分が検査をした症例の最終診断がどうであったか,特に腹部領域ではCTやMRIなどの画像検査や手術をしていれば必ず所見を対比して,自身の検査で見逃している所見がないかをフィードバックすることが重要である.