Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション13
ソノグラファーのレポート: どこまで診断しどこまで書くべきか

(S245)

検査技師による超音波診断の限界〜誤診例の検討から〜

Limitations of Ultrasonographic Diagnosis by Sonographers

竹之内 陽子1, 畠 二郎2, 中武 恵子1, 谷口 真由美1, 岩井 美喜1, 麓 由起子1, 今村 祐志2, 春間 賢3

Yoko TAKENOUCHI1, Jiro HATA2, Keiko NAKATAKE1, Mayumi TANIGUCHI1, Miki IWAI1, Yukiko FUMOTO1, Hiroshi IMAMURA2, Ken HARUMA3

1川崎医科大学附属病院中央検査部, 2川崎医科大学検査診断学(内視鏡・超音波), 3川崎医科大学内科学(食道・胃腸)

1Department of Clinical Laboratory, Kawasaki Medical School Hospital, 2Division of Endoscopy and Ultrasound,Department of Clinical Pathology and Laboratory Medicine, Kawasaki Medical School, 3Division of Gastroenterology,Depertment of Internal Medicine, Kawasaki Medical School

キーワード :

【背景と目的】
近年医師が超音波診断を行う機会は減少傾向にあり,それに伴い検査技師が超音波検査を施行する割合が増加している.超音波はoperator-dependencyの高い検査法であり,見落としや誤診の危険性があることは検者が医師であるか,また検査技師であるかとは基本的に無関係と思われる.しかしながら事実上検査技師単独で超音波診断が決定されている施設も多い現状において,技師にある程度特有の誤診傾向が存在するとすれば,今後特にそれらに重点を置いた誤診の予防対策が必要とされる.そこで検査技師が超音波診断を行う上での問題点を誤診例から検討した.
【対象と方法】
当院超音波センターに在籍中の臨床検査技師6名を対象とした.超音波検査の経験年数は1年から13年2ヵ月(中央値7年1ヶ月)で,4名が腹部領域の日本超音波医学会認定超音波検査士である.2007年1月から2009年12月に施行した腹部超音波検査症例28413例のうち誤診例57例をretrospectiveに検討した.誤診の定義は検査技師が超音波を施行したのち同日から数週間以内に上級医師により再検査が施行された結果正診が得られたものとした.だだし患者の訴えと無関係あるいは病的意義に乏しいと思われる所見(肝嚢胞など)は検討対象から除外し,治療を必要とする症例のみを対象とした.最終診断は開腹術や生検が施行された症例26例では手術所見あるいは病理学的所見により,他の31例では内視鏡などのほかの形態学的検査,血液生化学検査や臨床経過を総合的に判断して決定した.誤診に至った原因を①最終診断の決定における誤り,②画像の解釈上の誤り,③未知の疾患,④想定外の疾患あるいは思い込みによる誤り,⑤不十分な描出手技による誤りの五つに分類した.
【結果】
誤診例57例における誤診の原因として,①最終診断の決定における誤り16例(28.1%),②画像の解釈上の誤り22例(38.6%),③未知の疾患4例(7.0%),④想定外の疾患あるいは思い込みによる誤り8例(14.0%),⑤不十分な描出手技による誤り7例(12.3%)が考えられた.③未知の疾患であった頻度は比較的低かったが,疾患には十二指腸憩室穿孔,腸間膜捻転による絞扼性イレウス,腹部アンギーナ,腸間膜血腫などが挙げられ,重篤な疾患も含まれていた.⑤不十分な描出手技によるものは消化管に多く,大腸肝・脾彎曲部や直腸上部など,一般的に見落とし易いとされている部位と同様であり,特に技師特有の傾向とは言えないと思われた.①最終診断の決定における誤り,②画像の解釈上の誤りは実質臓器疾患,消化管疾患で概ね同程度であった.
【考察】
今回経験された誤診例に検査技師特有の傾向があるか否かに関しては,同程度の経験を有する医師との比較を行っていないため断定するのは困難と思われるが,上級医師の診断と比較すると,いくつかの問題点が存在していた.特に消化管においては見落としの少ない系統的走査の習熟,実質臓器ではパターン認識のみに依存しない画像の解析や病態生理を考慮した十分な鑑別診断,さらに全体的に比較的まれな疾患も含めた幅広い知識が診断能向上と信頼性の獲得に必要と考えられた.