Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション11
血流から心機能を診る

(S239)

左室拡張機能評価における血流ドプラ法の意義

Value of Doppler flowmetry for the assessment of left ventricular diastolic function

三神 大世

Taisei MIKAMI

北海道大学大学院保健科学研究院

Faculty of Health Sciences, Hokkaido University

キーワード :

 心不全は,左室駆出分画で表現される収縮機能の良否に関わらず生じ,そのほとんどに左室拡張障害が関与する.明瞭な左室の収縮障害や肥大がある例はもちろん,高齢,高血圧,糖尿病あるいは潜在する虚血など,正常との境界が曖昧な例でも,拡張機能評価の意義は大きい.その際,拡張期はじめの左室心筋の能動的弛緩,拡張期の後ろほど増す心筋の硬さ,またこれらの破綻を意味する左室充満圧上昇の各要素ごとに評価するのが望ましい.
 欧州と米国の心エコー図学会が共同で作成した左室拡張機能評価のガイドライン1)では,心不全の病態評価の要所要所に,組織ドプラ法による拡張早期僧帽弁輪運動速度(e’)やその経僧帽弁血流速度との比(E/e’)が使われている.e’は弛緩の,E/e’は充満圧の指標として使われるが,本来は局所的指標であるe’は,当然,虚血や肥大などによる局所的な心筋機能障害で修飾される.最近,我々は,弁輪石灰化がたとえ軽微でもe’の低下を招くことを示した.E/e’の充満圧評価におけるグレーゾーンの広さはよく知られており,最近でも,Mullensら2)が高度左室収縮障害患者でのE/e’の無効を主張し,この指標の役割に関する議論を再燃させた.
 ここで,いまや古典的ともいえる血流ドプラ指標の左室拡張機能評価における役割を再認識したい.経僧帽弁血流EやE/Aが拡張機能評価の基本であることに異論は少なかろう.これらは代償された弛緩障害の検出には鋭敏で安定した力を発揮する.また,心不全例では,あえてE/e’を使わずとも,充満圧上昇やその程度を判断できよう.
 問題はその間だが,カラーMモード法による左室流入血流伝播速度(FPV)は,このような例の左室弛緩障害を確実に検出できる3).その意義はe’と類似するが,現状ではその実力がかなり過小評価されていると思う.FPVの再現性不良や左室狭小例での誤評価を指摘する声もあるが,本質的な欠点というより計測法の問題と考えられ,適切な折り返し流速(Eの70%程度)を使えば回避できることを強調したい.
 左室弛緩障害が拡張障害の発端とすれば,左房の代償をフル稼働させる左室硬さの増大は,より代償破綻に近い状態を示唆すると考えられる.心房収縮期の経僧帽弁血流と肺静脈血流の持続の差(Ad-PVAd)も,決して新しい指標ではないが,左室拡張末期圧やA波高をよく反映し4),合理的かつ実用的な左室硬さの指標と考える.
 かつてMasuyamaら5)は,連続波ドプラ法による肺動脈弁逆流の拡張末期流速から求めた肺動脈・右室圧較差が肺動脈拡張末期圧をよく反映すると報告した.我々は,各種心疾患連続64例において,この方法で求めた肺動脈拡張末期圧(PAEDPPR)の左室充満圧推定への有用性を検討した.左室pre-A圧との相関は,E/e’(r=0.26,p=0.04)を含む諸指標よりPAEDPPR(r=0.56,p<0.0001)が良好であり,重回帰分析分析でもpre-A圧の唯一の規定因子として選択された.肺循環に問題さえなければ,本法は左室充満圧推定にE/e’より有用と考えられた.
 臨床例の左室拡張機能を分析する上で,血流ドプラ指標はより重視されるべきと考える.EやE/Aを基本に,FPVで左室弛緩を,PVAd-Adで左室硬さを,またPAEDPPRで左室充満圧を評価すれば,左室拡張機能を総合的に把握することができる.

1)Nagueh SF et al: J Am Soc Echocardiogr 2009;22:107-33
2)Mullens W et al: Circulation. 2009;119:62-70
3)Takatsuji H et al: J Am Coll Cardiol. 1996;27:365-71
4)Rossvoll O et al: J Am Coll Cardiol 1993;21:1687-96
5)Masuyama T et al: Circulation 1986;74;484-92