Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション8
CT・MRI 時代における超音波検査のあり方

(S224)

体外式超音波検査が診断に有用であった症例に関する検討-CT検査との比較

Retrospective study about cases in which ultrasound were very useful for diagnosis - a comparison between ultrasound and CT

石井 学1, 畠 二郎2, 眞部 紀明2, 今村 祐志2, 中武 恵子3, 竹之内 陽子3, 谷口 真由美3, 岩井 美喜3, 麓 由起子3, 春間 賢1

Manabu ISHII1, Jiro HATA2, Noriaki MANEBE2, Hiroshi IMAMURA2, Keiko NAKATAKE3, Yoko TAKENOUTI3, Mayumi TANIGUTI3, Miki IWAI3, Yukiko FUMOTO3, Ken HARUMA1

1川崎医科大学内科学食道・胃腸科, 2川崎医科大学検査診断学, 3川崎医科大学附属病院内視鏡・超音波センター

1Division of Gastroenterology, Department of Internal Medicine, Kawasaki Medical School, 2Department of Clinical Pathology and Laboratory Medicine, Kawasaki Medical School, 3Department of Endoscopy and Ultrasound, Kawasaki Medical School Hospital

キーワード :

【背景と目的】
近年CT,MRI等の著しい進歩と医療経済の効率化が問われる中,腹部画像診断における体外式超音波検査(以下US)の存在意義が改めて問われる時代が到来した.これらの画像診断は用いる原理が異なっており,USは組織分解能こそ無いものの組織構築を高分解能に表示する優れた手法であり,疾患によってはUSでなければ診断不可能である症例も現実に経験されるが,それに関して検討した報告は少ない.そこでUSがその診断においてCTより優れていた症例に関して検討した.
【対象と方法】
平成20年1月から平成21年12月の2年間に当院で経験年数3年以上の学会認定超音波検査士または超音波専門医が腹部超音波を施行した18926例(男性8868例,0歳 -102歳,平均年齢58.9±19.0歳)を対象とし,診断上USがCTより優位であった症例数を算出し,その原因を検討した.USが優位であると判断する基準は,US診断は最終診断と一致していたが,CT診断は最終診断と一致していないまたは病変そのものが指摘されていない場合,あるいはCTが施行不能であった場合(腎機能障害等)とした.CT診断は放射線専門医の読影報告書を参照し,最終診断は手術などを含めて総合的に判断した.小さな肝血管腫など通常は治療を必要としない症例,既に診断されている症例,CT所見に記載のない症例,通常CT検査の適応とは考え難い症例(早期胃癌の検出や深達度診断),1対1の対応が困難で正誤の判定が困難な症例(リンパ節転移等)等は検討の対象から除外した.
【結果】
18926例中148例(0.78%)においてUSが優位と判断された.USが優位な症例の臓器別内訳は,消化管77例(52%),肝臓21例(14.2%),胆道系9例(6.1%),腹膜9例(6.1%),膵9例(6.1%),腎・尿管6例(4.1%),その他17例(11.5%)であった.また,急性疾患は56例,急性腹症は27例存在した.USが優位であった原因として以下が考えられた.①CTで分解困難な病変(虫垂に近接した憩室炎等),②CTで認識されない小病変(小さな播種性結節やfree air等),③Modality特性により描出困難な症例(X線陰性石等),④CT上正常と判定された病変(進行胃癌等),⑤CTの適応外であった症例(妊婦,慢性腎不全患者),⑥リアルタイムな観察が有用な病変(ヘルニアの非陥頓例,腹直筋のspasm等),⑦組織性状より組織構築の評価が診断に有用な病変(悪性リンパ腫と上皮性癌の鑑別等).特に消化管の急性疾患でUSが優位な症例が多く認められた.
【考察】
本研究の問題点としては,①retrospectiveな検討である,②CTが優位な症例を検討していない,③CTの性能が考慮されていない,④当院ではUSのみ施行されている症例も多くUS優位例は低く見積もられている,⑤US,CTともに機器性能やoperator-dependencyは考慮されていないなどが挙げられた.しかしながら,小さなfree airの検出,虫垂炎の診断,腸管虚血の判定など,急性腹症においてもUSが優位な症例が数多く存在した.消化管の急性疾患(急性腹症を含む)でUSが優位な症例が多く認められたことから,USを省略することはこれらの疾患を見逃す可能性があると考えられた.また,重症患者で移動困難な症例,女性の腹部症状の診断(妊娠時),乳児の急性腹症といったCTが施行困難な状況においても,USにより診断可能であった症例が認められた.本来CTとの診断能を冷静かつ公平に比較することは困難であるが,少なくとも本検討により,USでのみ診断可能であった症例も存在することが明らかになった.
【結論】
体外式超音波は腹部画像診断において省略されるべき検査法ではない.特に急性腹症において超音波を省略することは誤診の危険性があると考えられる.