Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション8
CT・MRI 時代における超音波検査のあり方

(S222)

急性腹症における超音波検査の有用性と限界:検査の位置づけ

Usefulness and limitations of ultrasonography for the diagnosis of acute abdomen:position of ultrasonography as imaging modality of choice

佐藤 通洋1, 山根 隆1, 井上 征雄1, 細田 幸司1, 船曳 知弘2

Michihiro SATO1, Takashi YAMANE1, Yukio INOUE1, Kouji HOSODA1, Tomohiro FUNABIKI2

1済生会横浜市東部病院放射線診断科, 2済生会横浜市東部病院救急部

1Department of Diagnostic Radiology, Saiseikai Yokohamashi Tobu Hospital, 2Department of Emergency and Critical Care Medicine, Saiseikai Yokohamashi Tobu Hospital

キーワード :

 急性腹症の画像診断は,超音波検査(US)とX線CTが主役である.単純X線写真はルーチンに撮影されるが,その情報量は限られており,MRIは疾患次第で追加される検査である.ベッドサイドで迅速かつ簡便に,診察や処置を行ないながら施行できるUSは,救急医療において極めて有用な診断法であり,外傷初期診療では液体貯留検出手技のFASTとしてその意義が確立されている.急性腹症においては,最初にUSを施行し,所見が陰性あるいは不確定な場合にCTを追加することが一般的なコンセンサスと考えられるが,その条件としてUS施行者が十分な技量を備えていなければならない.多くの医療施設が該当すると思われるが,当院のように夜間や休日など専門の施行者がいない時間帯には,救急室に隣接するCTに頼るのは当然といえる.また,最も情報量の多い検査はCTであるので,緊急時にはCTを優先すべきであり,必要に応じてUSあるいはMRIを行なうという考え方も成り立つ.とくに,わが国では諸外国に比べてCTの普及率が高く費用が安いため,放射線被曝の問題があってもCT施行を控える傾向にはない.実際に,以前勤務していた済生会神奈川県病院では,救急患者に対し可能な限りUSが施行されていたが,現在の済生会横浜市東部病院(3年前に神奈川県病院から機能移転)では,救急USの件数が減少している. 急性腹症に対するUSとCTの診断能は,多くの疾患においてほぼ同等であるが,臓器別あるいは病変の性質によって多少の差異が見い出される.消化管では,虫垂炎,大腸憩室炎,腸炎のような炎症性疾患の診断に対してUSとCTはほぼ同等と思われる.両者ともイレウスの診断はできるが,原因究明にはCTが必要で,消化管穿孔における遊離ガスの検出や穿孔部位の描出もCTの方が優れている.また,壊疽性病変や絞扼性病変における虚血の診断には造影CTを必要とし,有用性が報告されている造影USはCTをしのぐほどではない.肝・胆道系では大きな差はないものの,CTで描出されない胆石があるなど胆嚢疾患はUS優位であるが,総胆管結石の描出はCTやMRIに比べやや劣る.膵は元来 USによる描出に難点のある臓器であり,急性膵炎の診断はCTが優れている.腎・尿路では,結石の診断能はどちらも高いが部位による差があり,炎症や梗塞の診断はCT優位である.婦人科疾患に対してはほぼ同等で,最も優れているMRIは最初に行う検査ではない.血管系では,腹部大動脈瘤破裂や大動脈解離,内臓動脈瘤の診断はUSでも遜色ないが,大動脈分枝の血栓・塞栓あるいは解離はCT優位である. CTを行なう余裕がないショック状態や造影剤アレルギーなどの理由でCTを施行できない場合,また放射線被爆を回避すべき小児や妊婦の緊急時には USが必須の画像診断法であるし,患者との対話で症状や腹痛部位,圧痛を確かめながら検査できること,リアルタイムで観察できること,繰り返しの検査が容易で経時的変化を観察できることはUSの特質である.急性腹症においてはUS先行が標準と思われるが,初診時の緊急度・重症度や疑われる疾患によっては検査の優先順位を変更してもよい.