Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション6
乳腺,甲状腺領域における良悪鑑別困難症例の画像的アプローチ

(S217)

乳房超音波カラードプラ法による良悪性鑑別診断

Differential diagnosis using Doppler ultrasound for breast disease

奥野 敏隆

Toshitaka OKUNO

西神戸医療センター外科

Department of Surgery, Nishi-kobe Medical Center

キーワード :

乳癌をはじめ乳腺疾患は多彩な病理組織像を呈する.そのため画像診断,穿刺生検診断において,良悪性の鑑別に苦慮することがある.これら鑑別困難例に対する乳房超音波による診断的アプローチはBモード法による組織推定が基本であるが,併せて行うカラードプラ法による血流情報が参考所見として有用な場合がある.代表的な疾患をいくつか取り上げて,その要点を以下に示す.1)濃縮嚢胞と充実性パターンを呈する乳癌(充実腺管癌など):いずれも境界明瞭な充実性腫瘤を呈し,典型例では前者は内部高エコーで後方エコー減弱,後者は内部低エコーで後方エコー増強といった特徴的な所見から区別できることが多い.カラードプラを行うとこのタイプの乳癌では明瞭な拍動性血流を示すことが多く,内部に全く血流シグナルを認めない濃縮嚢胞と区別できる.充実性パターンを呈する小さな乳癌における大きさ別の血流シグナル検出率を100例について検討したところ,5 mm以下では23%,6〜10 mmでは88%,11 mm以上では98%であった.10 mmを越えるものについて,血流シグナルを認めなければ濃縮嚢胞と判断してほぼ間違いない.例外として広範な壊死を伴った髄様癌を経験している.2)線維腺腫と乳頭腺管癌(あるいは充実腺管癌):線維腺腫のなかでも上皮の増生が盛んな乳腺症型などでは境界が不整,内部不均一など乳癌と見誤るものがある.カラードプラにおける線維腺腫の特徴所見は境界部を円弧状に走行する血流である.血流波形解析では比較的小さな値の血流インデックスを示す.Bモードで乳癌を疑ってもこのようなドプラ所見から線維腺腫と診断できる.3)放射状瘢痕・硬化性腺症と硬癌:前者は結合組織の硬化を伴い,後者は腫瘍が線維化を伴いながら間質に浸潤する.いずれも形状不整で境界部高エコー・後方エコーの減弱が観察され,Bモード上の鑑別はしばしば困難である.カラードプラではいずれも腫瘍に貫入するような血流シグナルを認めることが多い.後者がより大きな血流インデックスを示すことから鑑別可能と考える.4)線維症(糖尿病性乳腺症など)と浸潤性小葉癌:いずれも後方エコーが減弱あるいは消失する境界不明瞭な腫瘤を呈することが多い.前方境界線の断裂の有無がBモード上の鑑別点である.カラードプラ上線維症は血流に乏しいことが鑑別の要点になると考える.5)嚢胞内乳頭腫と乳頭癌:細胞診・針生検といった穿刺生検診断もしばしば難渋する.組織診断上の鑑別の要点は上皮細胞の二相性の有無と均一性,組織構築である.Bモード上前者は立ち上がり急峻な結節状腫瘍として,後者は立ち上がりなだらかな不整形腫瘍として観察されることが多い.また出血による液面形成は後者により多く認める.カラードプラでは両者とも拍動性の豊富な血流を示すことが多い.血流インデックスのひとつのpulsatility indexについて,乳管内乳頭腫6例で検討したところ1.3±0.4と乳癌のそれとほぼ同じであった.穿刺生検同様,超音波診断にも限界が感じられる.腫瘍の大きさ,局在部位,年齢が鑑別に有用である.6)乳腺症(乳管上皮過形成)とDCIS:Bモード上乳腺内の低エコー域を呈することが多い.鑑別の要点は局在性(前者は両側性びまん性,後者は片側性区域性)と微細石灰化を示唆する微細点状高エコーの有無である.乳腺内の低エコー域を呈した45例についてそのカラードプラ所見を検討したところ,DCISでは乳腺症に比べて血流シグナルの増加を認めた.しかし,血流インデックスには差を認めなかった.腫瘍が塊を成す浸潤癌と異なりDCISでは腫瘍が疎に分布することが一因と考える.