Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション6
乳腺,甲状腺領域における良悪鑑別困難症例の画像的アプローチ

(S216)

術前診断に苦慮した浸潤性乳管癌の2例

Two cases of invasive ductal carcinoma with difficulties in making the preoperative diagnosis

大澤 英之1, 尾本 きよか2, 尾本 和1, 竹原 めぐみ1, 穂積 康夫1, 松永 宏明3

Hideyuki OZAWA1, Kiyoka OMOTO2, Yawara OMOTO1, Megumi TAKEHARA1, Yasuo HOZUMI1, Hiroaki MATSUNAGA3

1自治医科大学乳腺総合外科, 2自治医科大学附属さいたま医療センター臨床検査部, 3自治医科大学臨床検査医学

1Department of breast surgery, Jichi Medical University, 2Department of laboratory medicine, Saitama Medical Center, Jichi Medical University, 3Department of clinical laboratory medicine, Jichi Medical University

キーワード :

乳癌検診の普及に伴い触知不能で微小な病変が要精査となる機会が増え,精密画像検査の際には高い診断能が要求されるようになってきた.乳房超音波検査は安全かつ簡便で,多くの場面で有用性を発揮するが,ときに良悪性の鑑別や存在診断が困難な症例に遭遇する.今回われわれは超音波検査だけでは判断困難であった微小な病変に対して,複数の画像検査を総合的に勘案し診断に至った2症例を経験したので報告する.
【症例1】
71歳女性 主訴:検診異常検診の超音波検査では異常はなかったが,マンモグラフィーで異常を指摘され近医を受診した.近医の超音波検査で左A領域とC領域に5mm大の腫瘤を認め,細胞診で悪性が疑われ当科紹介受診となった.[MMG]左Mに2か所の非対称性局所的陰影を認める.[US]左乳腺のA領域に周囲の脂肪との境界が不明瞭な5mm大の不整形低エコー腫瘤,C領域の乳腺内に境界不明瞭で内部不均一な5mm大の不整形低エコー腫瘤がみられた.[細胞診] A領域の腫瘤はClassⅤでC領域の腫瘤はClassⅢであった.[MRI]A領域とC領域に5mm大と4mm大の造影効果を伴う結節性病変を認め,いずれも乳癌が疑われた.[経過]C領域の腫瘤に対して針生検を施行したがAtypical epithelial hyperplasiaで癌の診断は得られなかった.A領域の腫瘤に対しては乳房部分切除,C領域の腫瘤に対しては摘出生検を施行したところ,両病変とも病理診断は浸潤性乳管癌であった.
【症例2】
59歳女性 主訴:右乳房のしこり近医で定期的にマンモグラフィーと超音波検査を行っていた.マンモグラフィーで右乳腺の構築の乱れを指摘,精査加療目的に当科を紹介受診した.[MMG]右L・Iに構築の乱れがあり,微小円形石灰化の集簇もみられた.[US]右AB領域に2.5×4cm程度の境界不明瞭で内部に点状高エコー像を多数伴う低エコー域が観察された.[細胞診]この低エコー域からの穿刺にてClassⅤであった.[MRI]右乳腺のABE領域に区域性に広がる広範囲の造影効果があり,左乳腺AB領域にも径1cm程度の造影効果がみられた.[経過]再度超音波検査を行ったところ,左9時に5mm大の円形低エコー腫瘤がみられ細胞診ではClassⅠであった.手術は右乳房に対しては胸筋温存乳房切除を行い,左の腫瘤に対しては摘出生検を施行した.病理診断は,右側は広範囲な乳管内病変を伴う浸潤性乳管癌であり,左側も乳管内病変を伴う浸潤性乳管癌であった.[考察]日本でも乳癌検診が徐々に浸透し,それに伴い要精査となる病変も増加してきている.そのため二次精査では効率的かつ正確な画像診断が要求されるようになってきた.施設によって利用可能なモダリティに差異はあるが,ほとんどの症例でそれぞれのモダリティによる診断は可能である.しかし,ときに超音波検査,CT,MRIなど1つの画像検査だけでは診断を確定できないこともある.体表用高分解能探触子の普及により,乳腺腫瘍の診断能はかなり向上してはいるが,本症例のように微小な病変の良悪性判定や乳管内進展などの非浸潤部の範囲推定は困難なことが多く術前診断には注意が必要である.また病変によっては細胞診だけでなく針生検でさえ診断できないこともあり,MRIなどの画像診断で悪性が強く疑われるときは摘出生検なども考慮する必要があると考えられた.モダリティにより異なった判定結果になった場合には,それぞれの検査の特徴を理解した上で多角的画像検査と生検やマンモトームを含めた総合的術前診断を行う必要があると思われた.