Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション6
乳腺,甲状腺領域における良悪鑑別困難症例の画像的アプローチ

(S214)

良悪性の鑑別に注意を要する甲状腺疾患

Thyroid lesions with misleading ultrasound appearances

村上 司

Tsukasa MURAKAMI

野口病院内科

Department of Endocrinology, Noguchi Thyroid Clinic and Hospital Foundation

キーワード :

 甲状腺腫瘍の診断には超音波検査と穿刺吸引細胞診が最も有用である.甲状腺癌の約85%を占める乳頭癌では特徴的な超音波像,細胞診の所見から容易に診断できる例が多いが,一部に良性病変と紛らわしい超音波所見を呈する乳頭癌がある.濾胞癌では多くの症例で良悪性の鑑別が困難であり,甲状腺腫瘍の超音波診断において解決すべき大きな問題のひとつである.髄様癌や悪性リンパ腫にも良性病変との鑑別に注意を要する例がある.
 良性病変と紛らわしい乳頭癌には,嚢胞形成を伴う乳頭癌,濾胞型乳頭癌,びまん性硬化型乳頭癌が挙げられる.嚢胞形成を伴う乳頭癌では充実性の部分の観察が重要である.点状高エコーを伴うことが多く,充実性の部分と周囲の正常甲状腺組織との不整な境界を観察できることがある.診断確定のためには充実性の部を狙った細胞診が必要である.濾胞型乳頭癌は形状整で境界明瞭な充実性腫瘍として描出されることがあり,濾胞腺腫との鑑別が困難な場合がある.びまん性硬化型乳頭癌では明らかな結節性病変を伴わずびまん性甲状腺腫として描出されることがある.甲状腺内に多発散在する微細点状高エコーが特徴的な所見である.また,周囲のリンパ節に転移を疑わせる所見がないか観察することが重要である.
 濾胞癌の超音波診断が困難であることはよく知られている.分化度の低い濾胞癌や転移を伴うような進行した濾胞癌は超音波検査で診断できることがあるが,大部分の濾胞癌の超音波診断は困難である.形状不整,充実性,内部不均質,高エコーの存在は濾胞腺腫に比べて濾胞癌に有意に高頻度に見られる所見であるが実際にはこれらを根拠に診断することは難しい.腫瘍内の血流分析やエラストグラフィーが濾胞癌の診断に役立つ可能性が報告されている.
 髄様癌は充実性で境界部低エコー帯を伴わない低エコーの腫瘍として描出されることが多い.石灰化をしばしば伴うことも特徴であるが乳頭癌にみられる微細な高エコーであることは少ない.形状は整の場合と不整の場合とがある.形状不整な場合は乳頭癌の超音波像に近く悪性を疑わせるが,形状整の場合は濾胞癌や濾胞腺腫との鑑別が問題になる.
 悪性リンパ腫は充実性の病変で低エコーに描出されpseudocystic signとも表現される.限局性にとどまるエコーレベルの極端に低い病変では嚢胞との鑑別に注意を要する可能性がある.逆に甲状腺全体に広がった悪性リンパ腫では橋本病との鑑別に注意を要する.
良性と紛らわしく見える甲状腺悪性腫瘍の超音波所見について検討した.悪性腫瘍の典型的な超音波所見を知ることはもちろん重要であるが,悪性らしく見えない悪性腫瘍もあること,その場合の超音波での見え方を知ることも重要と思われる.