Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション4
専門医ソノグラファー養成のための教育システムを考える

(S207)

血管領域における超音波専門医の育成について

Training Course for Board Certified Fellow in Vascular Ultrasound

尾本 きよか

Kiyoka OMOTO

自治医科大学附属さいたま医療センター総合医学第1講座 (臨床検査部)

1st Dept. of Integrated Medicine, Laboratory Medicine, Saitama Medical Center, Jichi Medical University

キーワード :

Ⅰ.自治医科大学附属病院における医師研修プログラムについて
 1.研修対象者:初期研修終了後,臨床経験をある程度積んだ上での研修を推奨している.大学内全診療科のみならず外部医療機関の医師を随時受け入れている.
 2.研修期間:2ヶ月を基本に,適宜希望に応じて期間を増減する.
 3.研修準備:患者検査時の接遇,レポートの書き方,用語の適切な使用法を説明する.まず研修医同士で実習し,各臓器の正常像(Bモード)を確認し,画像取得の手順を理解してもらう.
 4.研修手順:理解しやすい腹部領域から始め,到達度に応じて順次表在領域,心臓・血管領域へと進めていくが,超音波研修が始めての場合は基本的に血管のみの研修は認めていない.2〜4週を目処に,日本超音波医学会の超音波専門医研修カリキュラムに沿って,カラードプラ法を必要とする心臓や血管エコー検査を行う.
≪血管系の超音波専門医研修カリキュラム≫ 日本超音波医学会のホームページ参照
  第8章 その他の領域
   ( 2 ) 末梢血管:一般目標:末梢血管の超音波検査の基本と病的状態の超音波所見を理解する.
    【解剖・生理】
     ・カラードプラ法やパルスドプラ法による血流計測が適切に行える.
     ・パルスドプラ法による末梢動・静脈の正常血流波形を説明できる.
    【動脈疾患】
     ・動脈硬化,閉塞性動脈疾患,高安動脈炎ほかの特徴的超音波所見を説明し,描出できる.
     ・ドプラ法により狭窄部の特徴的超音波所見を説明し,描出できる.
    【静脈疾患】
     ・深部静脈血栓症,下肢静脈瘤の超音波像を描出し,その特徴を説明できる.
    【その他】
     ・リンパ浮腫,バイパス術後や血管内治療後の評価
      それぞれ到達目標を設定している.
Ⅱ.血管領域における他領域との相違点
 1. 観察対象部位の多彩さ
  a.頸動脈・椎骨動脈  b.大血管系:腹部大動脈・下大静脈
  c.腎動脈・腎静脈   d.下肢深部静脈,下肢表在静脈,下肢末梢動脈
  e.その他,リンパ管,透析シャント,側頭動脈
 2. カラードプラ法(PW,CW)を使用しなければならず,操作が煩雑.
   血管の走行,カラーゲインや速度レンジの調節,
   サンプルボリュームの設定,角度補正,スラント機能
 3. 観察困難な症例が多い
  1) 腎動脈・腎静脈の描出:腹壁脂肪層,腸管,ガスの影響,深部
  2)下肢深部静脈:特殊な状況・状態での検査が多い-妊婦,臥床,術後
  3)観察部位が深部かつ低速(静脈)血流であるため描出・解析・評価が難しい
 4. 頸動脈・腎動脈などは狭窄・閉塞の評価のため血流分析(定量的評価)が必要
Ⅲ.超音波専門医を育成する上での問題点
 1.超音波専門医・指導医および研修施設の絶対数が少ない.
   超音波専門医志願者が増えない理由
    (1)会員に対して,専門医を取得するような積極的働きかけが不十分
    (2)超音波専門医取得の意義やメリットが不明確
      病理診断,放射線読影,検体検査などでは保険上の加算点数制度がある.
      例:「画像診断管理加算」⇒CTの読影報告書は「放射線専門医」が直接記述
      例:「検体検査管理加算」⇒「臨床検査専門医」がいる病院で加算
    (3)専門医取得するための条件が厳格
      ①5年間継続して超音波医学研修:本会の指定する超音波専門医研修施設に於いて,超音波指導医の指導のもとに研修.
       (暫定措置) ただし,指導医が意見書により指定超音波専門医研修施設に於いて行う研修と同等の研修をしたと認めれば可とする.
      ②業績および臨床研修の実績基準:筆頭者として5篇以上の超音波医学に関する学会発表,あるいは学術論文を有すること.ただし,本委員会が適格であると認めた学術集会,または学術誌に限る.
      ③広範な試験範囲と内容:専門以外に他領域の基本的臨床知識と医用超音波工学の基礎について理解しなければならない.
    (4)他学会においても「超音波専門医」の認知度を向上させる必要がある.
       *他学会専門医を同時に取得している超音波専門医が,他の関連学会において「超音波検査」の有用性や「超音波専門医」の教育・育成上の重要性や役割について積極的に発表,アピールする必要がある.
       例)特に血管と関連の深い放射線科,循環器内科,血管外科,脳神経科その他臨床検査科,救急科,消化器内科,腎・泌尿器科,乳腺・甲状腺外科,産婦人科,小児科ほか
 2.学会としての課題
   (1)超音波専門医認定試験の受験コースに「血管」がない.
   (2)血管エコー検査における用語や表示法の統一,標準化が早急に必要である.
   (3)血管部位別診断基準の追加作成が望まれる.
     *現在ホームページ上に掲載されている診断基準
       ・超音波による頸動脈病変の標準的評価法
       ・下肢深部静脈血栓症の標準的超音波診断法