富澤 稔¹, 篠崎 文信², 杉山 隆夫³, 山本 重則⁴, 末石 眞³, 吉田 孝宣⁵

Minoru TOMIZAWA¹, Fuminobu SHINOZAKI², Takao SUGIYAMA³, Shigenori YAMAMOTO⁴, Makoto SUEISHI³, Takanobu YOSHIDA⁵

¹独立行政法人国立病院機構下志津病院消化器内科, ²独立行政法人国立病院機構下志津病院放射線科, ³独立行政法人国立病院機構下志津病院リウマチ科, ⁴独立行政法人国立病院機構下志津病院小児科, ⁵独立行政法人国立病院機構下志津病院内科

¹Department of Gastroenterology, National Hospital Organization Shimoshizu Hospital, ²Department of Radiology, National Hospital Organization Shimoshizu Hospital, ³Department of Rheumatology, National Hospital Organization Shimoshizu Hospital, ⁴Department of Pediatrics, National Hospital Organization Shimoshizu Hospital, ⁵Department of Internal Medicine, National Hospital Organization Shimoshizu Hospital

キーワード :

【目的】
腹部症状を主訴とし，白血球とCRPが高値を呈するものの腹部レントゲンに有意な所見がみられない症例にしばしば遭遇する．これら症例の病態を解明するため，腹部超音波検査を施行した．
【対象と方法】
平成21年11月9日より同月13日まで，腹部症状を主訴に当科を受診し，血液検査で白血球増多，CRP高値を認めるものの，肝機能に異常を認めなかった症例に腹部単純レントゲン検査と腹部超音波検査を通常の診療の一環として施行した．
【結論と考察】
4例が該当した．全例で腹部単純レントゲン検査では有意な所見は見られなかった．症例1は72歳男性．吐き気を主訴に来院．白血球:8700/ml，CRP:11.6mg/dl．腹部超音波検査では上行結腸の全周性の著明な壁肥厚を認めた．一年前の下部消化管内視鏡検査では上行結腸に憩室を認めた．上行結腸憩室炎の診断にて入院となり，抗生剤を投与により軽快した．症例2は31歳男性．下痢を主訴に受診．白血球:11100/ml，CRP:6.3mg/dl．腹部超音波検査では上行結腸の長さ7cmにわたる全周性の肥厚を認め，憩室も描出された．上行結腸憩室炎の診断にて入院となり，抗生剤投与により軽快した．症例3は23歳男性．下痢，左下腹部痛を主訴に来院．白血球:12400/ml，CRP:1.7mg/dl．腹部超音波検査ではS状結腸に液体貯留を認め，大腸炎の診断にて入院，抗生剤投与により軽快した．便培養では病原性大腸菌が検出された．症例4は60歳女性．一ヶ月にわたる便秘を主訴に来院．子宮頚癌にて子宮全摘術の既往あり．白血球:20000/ml，CRP:10.6mg/dl．腹部レントゲンでは異常はなかったが腹部超音波検査では膀胱の背面に長径6cm，やや不整形の低エコーの腫瘤を認めた．CT，MRI，注腸造影検査により骨盤内腫瘍があり，S状結腸を狭窄していることが判明した．症例1と症例2は主訴が腹痛ではなかった．症例2は腹部超音波検査中に上行結腸に一致した圧痛が出現したが，症例1は全経過中に腹痛・圧痛がなく，腹部超音波検査を施行しないと正確な診断には至らなかった可能性がある．症例4では肝転移の可能性に対して造影超音波検査を施行したが，肝転移を示唆する所見はみられなかった．造影超音波検査はダイナミックCTを施行せずとも診察室で肝転移の可能性に迫ることができ，有用であった．以上の症例において腹部超音波は，病態の解明および診療方針の検討に有用であったことが判明した．
【結論】
超音波検査は無侵襲で骨盤，消化管も含めて病態を把握するのに最適である．