Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション3
腹部救急の超音波診断update

(S199)

腹部救急の診断における体外式超音波の有用性 -消化管-

Sonographic Diagnosis of Acute Gastrointestinal Disorders

眞部 紀明1, 畠 二郎1, 今村 祐志1, 斉藤 あい1, 春間 賢2

Noriaki MANABE1, Jiro HATA1, Hiroshi IMAMURA1, Ai SAITO1, Ken HARUMA2

1川崎医科大学検査診断学, 2川崎医科大学食道・胃腸内科

1Dept. of Clinical Pathology and Laboratory Medicine, Kawasaki Medical School, 2Dept. of Gastroenterology, Kawasaki Medical School

キーワード :

【緒言】
急性腹症の原因疾患は多岐におよび,その診断には幅広い知識が必要とされる.中でも消化管疾患は急性腹症の原因となる頻度が最も高いことからも,消化管を対象臓器としない体外式超音波(以下US)の存在意義は著しく損なわれる.現実に我々の施設では急性腹症の診断においてUSがfirst choiceであり,また多くの場合でfinal diagnosisの手段でもある.本パネルディスカッションではその有用性に関して症例を呈示しながら議論する.
【USの診断能】
急性腹症においても,US診断を決定したすべての症例(特にUSで疾患の存在を否定した症例)に開腹術を施行して診断を確定しているわけではないことから,正確な感度や特異度の算出は不可能であるが,確定診断の得られた症例に関してはUSの診断能(この場合確定診断症例数をUS診断症例数で除した値)概ね90%台後半であり,臨床上は非常に優れた診断法と考えて差し支えない.診断能に影響する因子としては,検者の技量:①系統的走査の習熟度,②疾患に関する知識,ならびに機器の性能が主なものと思われ,被検者の体格は診断の難易度には影響するが,最終的にはほぼ正診が得られていることから,我々の施設では報告書に「tough patient」や「CTによる精査をお願いします」という記載をする検者はいない.
【消化管の評価】
消化管病変の画像は①壁,②内腔,③周囲に大別される.また壁には層構造が存在している.これらについて我々は10のチェックポイントに分類しているが,各項目について詳細に検討し,鑑別疾患を考慮しつつUS診断を決定するというプロセスが正診への唯一の道である.
【CTとの優劣】
同じ断層診断法であっても用いる手法が異なっていることから,CTとUSにはそれぞれの長所と短所が存在することは周知の通りである.一般にCTがUSを内包しているような錯覚が流布しているようであるが,CT診断を凌駕するUS診断を提供できない技量不足がその原因である.消化管においては病変の層構造や周囲の微細な変化,さらには蠕動や毛細血管レベルの微細循環動態などCTでは評価困難でありかつ急性腹症の診断に重要な所見をUSによりとらえることができる.すなわち,急性腹症の診断においてUSを省略することは明らかに誤診や見逃しの危険を伴う.
【US診断のpitfall】
例えればCTやMRIが腹腔内という暗闇を一瞬のフラッシュで撮像し,その全体写真を見ながら病変を発見するのに対し,USは懐中電灯で照らしながら病変を探索する手法であることから,検査を施行している時点で関心の対象としなかった部位に有用な所見が存在した場合の診断は困難である.言い換えれば「こんな疾患は想定していなかった」「こんなところに異常所見があるとは思わなかった」というケースである.従って各臓器を確実に描出し,そこに異常が無いのを確認しない限り,特定の疾患を否定することは避けた方が良い.例として発症早期の虫垂炎や腸間膜動脈閉塞,free airに乏しい消化管穿孔などがある.
【結語】
消化管はUSの対象臓器であり,特に急性腹症の診断における存在意義は大きい.正しい走査手技と幅広い知識の習得が必要条件ではあるが,USというmodalityそのものは良好な診断能を有する代替困難な診断法である.