Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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cover

2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション2
超音波で胎児を何処まで診るべきなのか?

(S196)

妊婦のきもち〜一記者から見えたこと

What expectant mothers think -from a reporter’s point of view

中川 美香

Mika NAKAGAWA

宮崎日日新聞社文化部

Miyazaki Nichinichi Shimbun

キーワード :

 2005年に双子を出産.出産まで管理入院したことで,さまざまな妊婦と出会った.おなかの赤ちゃんが「双胎間輸血症候群」と診断され,妊娠17週から入院していた妊婦.胎児に腎臓の異常があり,妊娠5カ月目で「自然分娩で外に出す」ことが決まった妊婦.双子を授かり,減数手術を提案された妊婦.四肢短縮症と診断され,出産をためらい,悩み抜いていた妊婦.こんなにもおなかの中のことが明確に分かる時代になったのだ,胎内治療がこれほどスタンダードなものになり,産婦人科の先生方の勝負は早い段階から始まっているのだ,と驚いた.一方で,検査技術,胎内治療の急速な発展速度に比べ,それを告げられる妊婦や家族へのケアはまだまだ遅れていると感じたのも事実だ.死産への恐怖,悲しみ,または,障害を持って生まれてくるかもしれないことへの不安.それに寄り添うサポートは,発達段階である.「出生前診断」は必要から生まれてきたものだろうが,生命倫理の面からの議論は追い付いていないように思う.また,「知る権利」もあれば「知らない権利」もあるはずだ.しかし,医療全体ではインフォームドコンセントが浸透し,視野を広げれば行政,企業などに「説明責任」が厳しく問われる時代になり,「事実を解明して即座に知らせることが善」という風潮が社会の主流になってきた.「知らせる」以上は,妊婦,家族への気持ちを考慮したケアシステムを構築したいし,果たして「知らせること」は幸福なのか,市民を巻き込んだ議論も必要なのではないかと思う.ある首長がブログに「高度医療のおかげで機能障害を持ったのを生き残らせている」と記し,懸命に生きる障害者や家族を傷付けたが,障害者を社会的負担,もしくはかわいそうな存在として見るような世の中の見方も,その議論には含まれていくのではないだろうか.また,昨年,臓器移植法改正をめぐって脳死に関する議論が起きたものの,「生きるとは」「死ぬとは」といった生命倫理の議論が中途半端に終わった.その際,臨床現場の倫理的ジレンマを語り合える場「喫茶☆りんり」(宮崎市)を運営している研究者に取材した.こういった医療従事者の悩みにも寄り添える場づくりも,技術発展の傍らで着実に進められるべきでは,と考えた.拙著「ハロー!ベイビーズ〜双子育児で見えたもの」で,高度医療の陰で,直面した事実に戸惑う妊婦の姿を伝えたところ,多くの反響があった.産婦人科は「医師不足問題」としてマスコミで取り上げられる機会が増えている.一つ一つの事例への判断,選択の意味が重くなっている現状も多くの人に知ってもらい,いのちをめぐる議論の輪が広がることを願っている.