Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション2
超音波で胎児を何処まで診るべきなのか?

(S195)

超音波胎児診断−症例からみた問題点−

The various problems about ultrasonographic examination for prenatal diagnosis

東島 愛, 城 大空, 吉田 敦, 三浦 清徳, 中山 大介, 吉村 秀一郎, 増﨑 英明

Ai HIGASHIJIMA, Ozora JYO, Atsushi YOSHIDA, Kiyonori MIURA, Daisuke NAKAYAMA, Shuichiro YOSHIMURA, Hideaki MASUZAKI

長崎大学産婦人科

Obstetrics and Gynecology, Nagasaki University

キーワード :

超音波装置の機能向上により胎児の細かい異常まで診断されるようになった.しかし,胎児の何をいつ,どこまで診るのかについて一定の基準がないために,施設間あるいは検査者間の差異が大きい現状がある.一方で,胎児診断された胎児の取り扱いについても,臨床の様々な局面で衝突や矛盾がみられる.また胎児診断されず,生まれた後に異常が見つかった場合,両親は出生前の管理に不満を感じることもあり得る.そういう事例は日常の診療のなかで多くの産婦人科医が経験することであろう.欧米における出生前超音波検査は,妊娠経過を通じて,専門的な施設において1〜2回のみ行われるが,その検査項目や内容はかなり組織的なものになっており,スクリーニング→精密検査の流れが確立されている.一方わが国では,一般の診療所で妊婦健診ごとに超音波検査が行われており,その内容は施設間で様々である.そのため医療の現場では様々な問題が露呈しており,例えば妊娠初期の胎児後頸部に認められる低エコー域の厚み,いわゆるNT(nuchal translucency)が独自の解釈の元に,施設によっては染色体検査に代わるものとして取り扱われているときく.しかしNTは本来,出生前スクリーニング検査のマーカーの一つであって,母親の年齢や母体血清マーカー試験などと同列に位置づけられている検査である.たとえNT が増大していても,多くの例は正常児として出生する.しかし最初の説明でいったん「胎児異常(の可能性)」のイメージが両親に植え付けられると容易には取り去れず,やむなく人工妊娠中絶を選択されることもある.胎児の十二指腸閉鎖と診断された場合,染色体異常が一定の頻度で存在する.十二指腸閉鎖は出生後に治療可能だが,染色体異常の治療は難しい.妊娠22週以降に十二指腸閉鎖が見つかった場合,産婦人科医はどこまで診断する必要があるだろうか.染色体異常の有無を出生前に知る必要があるだろうか.ここではこのような問題のある症例を取り上げて,出生前胎児診断が内包する矛盾について考えるための資料として報告する.そして,このような現実を元に,法律家や倫理学者やマスコミなど第三者の視点を加えて,わが国の超音波検診の標準化が推進されていくことを期待したい.