Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション1
弁膜症を見直す

(S191)

大動脈弁閉鎖不全症に対する自己弁温存手術適応決定のための経食道心エコー図法の役割

Role of transesophageal echocardiography for anatomical and functional assessment in aortic regurgitation

川合 宏哉, 大西 哲存

Hiroya KAWAI, Tetsuari ONISHI

神戸大学大学院医学研究科内科学講座循環器内科分野

Division of Cardiovascular medicine, Kobe University Graduate School of Medicine

キーワード :

 従来,外科治療法を考慮した大動脈弁閉鎖不全症の成因分類として,大動脈自体の病変による大動脈弁閉鎖不全,大動脈基部の拡大による大動脈弁閉鎖不全,大動脈弁交連部の支持機能不全による大動脈弁閉鎖不全に分けられてきた.そして,大動脈弁自体の病変が主体である症例に対しては大動脈弁置換術,大動脈基部拡大や交連部の支持機能不全が主体である症例に対しては,Bentall手術を代表とする人工弁付き大動脈グラフトによる置換術が行われてきた.近年,後者に対しては大動脈弁がほぼ正常あるいは軽度な病変の症例に対して自己大動脈弁を温存して大動脈基部置換を行う手術が行われ始め,さらに術式の工夫,術者の技術進歩により,大動脈弁病変がある場合にも形成術を行うことにより自己弁を温存することが可能になりつつある.このような形成術の適応拡大に伴い,術前に大動脈弁を詳細に評価する必要性が高まっている.そこで,新たな大動脈弁閉鎖不全症の成因分類が提唱された.この分類は,開放・閉鎖という正常の大動脈弁機能が大動脈弁弁尖のみで作動するものではなく,大動脈弁輪部・大動脈弁尖・バルサルバ洞・大動脈弁交連部・洞大動脈接合部(sino-tubular junction; STJ) で構成される機能的大動脈弁複合体(functional aortic valve unit)が統合的に作動することで機能するという概念に基づく.この概念は僧帽弁複合体が弁輪部・弁尖・腱索,乳頭筋,乳頭筋付着部周囲左室心筋で構成される考え方と同様のものである.大動脈弁閉鎖不全症はこの機能的大動脈弁複合体の異常によって起こる,と捉えられる.そして,弁尖の形状ならびに動きにより大動脈弁閉鎖不全症を3型に分類する.Ⅰ型は正常弁尖(normal cusp)でかつ大動脈基部拡大による大動脈弁閉鎖不全,Ⅱ型は弁尖運動が過剰であること(excess cusp motion)を特徴とし,大動脈弁逸脱や大動脈弁窓(fenestration)がこのⅡ型に属し,弁尖組織の変化は少なく良好に保持されている大動脈弁閉鎖不全,Ⅲ型は弁尖運動が制限されていること (restricted cusp motion)を特徴とし,リウマチ性や退行変性による大動脈弁がこのⅢ型に属し,弁尖組織の変化は高度であり弁の退縮や線維化・石灰化を高度に有する.この分類においてⅠ型は自己弁温存手術が選択され,Ⅲ型の多くは人工弁置換術が選択されるが,Ⅱ型の多くが近年大動脈弁に対する手術において形成術が選択され,自己弁温存が可能となりつつある.注意すべき項目は,僧帽弁と異なり大動脈弁の逸脱の成因は粘液腫様変性のみではなく,先天性二尖弁,窓(fenestration),限局性大動脈解離などの病変によっても逸脱の形態を示すことである.もう一つの注意すべき項目は,大動脈基部拡大における逆流の重症度は洞大動脈接合部(STJ)の拡大度に関連しており,同部位の拡大がバルサルバ洞の拡大病変が進展したものか上行大動脈の拡大病変が及んだものかを判別することである.このような機能的大動脈弁複合体の評価に経食道心エコー図検査は必須かつ重要である.本パネルディスカッションでは,機能的大動脈弁複合体の概念を概説し,特にⅡ型病変の評価における経食道心エコー図検査の有用性を述べる予定である.