Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム11
超音波による骨の計測と臨床応用

(S181)

超音波骨量測定法(QUS法)は骨密度のみでなく骨構造も評価できるか

The quantitative ultrasound method could assess not only bone mass but also bone quality.

山崎 薫1, 山本 和史2, 松川 真美3

Kaoru YAMAZAKI1, Kazuhumi YAMAMOTO2, Mami MATSUKAWA3

1磐田市立総合病院 整形外科, 2浜松医科大学 整形外科, 3同志社大学 生命医科学部

1Department of Orthopaedic Surgery, Iwata City Hospital, 2Orthopaedic Surgery, Hamamatsu University School of Medicine, 3Faculty of Life and Medical Sciences, Doshisha University

キーワード :

【目的】
 QUS (quantitative ultrasound)法は骨量のみでなく骨質も評価できる方法として1990年代に開発・実用化が進められた.その後欧米で行われたSOF study ,EPIDOS studyという大規模疫学試験ではQUS法が大腿骨頸部骨折のリスクを予測するpredictor になり得ることが証明され,その臨床応用は飛躍的に進んだ.しかし,QUS法が骨量のみでなく骨質も評価できる否かに関する基礎的研究はあまり多くない.本研究の目的は,ウシ摘出骨を試料に皮質骨測定における超音波測定値の意義を明らかにすることである.
【方法】
 QUS法による骨の物理的評価の有用性を検討するために,骨梁構造のない皮質骨試料の超音波音速の詳細な分布と異方性を調べ,さらに骨質評価のひとつの指標として結晶学的なアプローチを用いて検討した.試料1として,36月齢のウシ一頭の大腿骨骨幹部から円環状の試料3つを作成した.また試料2として36月齢のウシ2頭の大腿骨の骨幹部から骨軸方向,半径方向,円周方向の3つの方向に垂直な面を持つ直方体試料を計80個作成した.これらを試料として,超音波音速とBMD,X線回折パターンを測定し,音速と結晶配向,異方性について評価した.超音波測定には自作のtransducerを用いて中心周波数10MHzのバースト1波を試料に透過させ測定した.試料内の音速は,生理食塩水のみを透過した場合の波形と生理食塩水と試料を透過した波形の二つの波の伝搬速度の差,試料の厚さと生理食塩水の音速から算出した.ハイドロキシアパタイト結晶配向度は(0002)面の回折波を定量化することで評価し,今回は回折波の積分強度をIntegrated intensityあるいはIntensity ratioとして結晶配向度の指標とした.
【結果】
 ウシ皮質骨は一様に硬く,一見均一にみえるが,顕微鏡で観察すると微細構造が存在する.plexiform構造は層状に骨が並んでみえる構造であり,Haversian構造は管状構造を有する皮質骨である.試料内にみられるそれぞれの構造を考慮して,それぞれ構造別に測定結果をみると,音速とハイドロキシアパタイト結晶配向度はplexiform群で決定係数0.875の高い線形相関を認めた.一方,BMDとハイドロキシアパタイト結晶配向度との間には有意な相関関係は見られなかった.直方体試料の直交する三方向の音速と結晶配向度の関係,BMDと結晶配向度の関係を検討した.音速は骨軸方向で4300m/s程度,半径方向で3500m/s,円周方向で3700m/s程度で明らかに骨軸方向には速い音速を示した.それに対し結晶配向度も骨軸方向が2から4であるのに対して,半径方向,円周方向では0.7以下の非常に低い値を示した.
【結論】
 ウシ大腿骨骨幹部の皮質骨は骨軸方向へ強い弾性を示し,ハイドロキシアパタイト結晶のほとんどは骨軸方向に配向していると考えられた.また,この方向には非常に早い音速を示すことも明らかとなった.骨軸方向では音速は結晶配向に依存し,骨密度の影響をあまり受けないと思われ,音速はハイドロキシアパタイトの量よりも骨軸方向を向いている数に影響されていると推測できる.このことは,QUS法の音速が皮質骨においてはその骨構造を反映したものであることを示している.