Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム11
超音波による骨の計測と臨床応用

(S181)

海綿骨中の超音波伝搬シミュレーション技術

Simulation Technique of Ultrasound Propagation in Cancellous Bone

長谷 芳樹

Yoshiki NAGATANI

神戸市立工業高等専門学校 電子工学科

Department of Electric Engineering, Kobe City College of Technology

キーワード :

【目的】
海綿骨中を伝搬する超音波の2波分離現象のさらに深い理解のためにはシミュレーションによる検討が有効である.2波の伝搬の様子が3次元的に可視化できれば,「横波」「縦波」の区別や,回り込み・屈折,骨梁から骨髄への音波の放射の状況など,トランスデューサだけでは得られない情報が得られる.これらの情報は,将来のin vivo診断装置の設計において重要な役割を果たす.また,シミュレーションでは実測では困難な検討を仮想的におこなうことも可能である.
【試料・方法】
試料は,ウシ大腿骨端部から切り出した海綿骨を用いた.X線マイクロフォーカスCT装置により3次元断層画像を撮影し,3次元弾性FDTD法(有限差分時間領域法)によるシミュレーションにより,実測結果との比較・検討をおこなった.なお,骨梁部分の減衰定数および縦波の音速値として,ウシ大腿骨の皮質骨の測定値を用いた.振動子は凹面集束型のものと平面のものを使用した.
【結果(凹面集束振動子を用いた音速・振幅測定)】
図1は,同一試料の同一部位にほぼ同条件で超音波を伝搬させたときの受波波形の比較例である.高速波の速度や振幅などが,実測とシミュレーションでよく一致していることがわかる.ここで,送波には凹面振動子を用いて照射位置を1mm刻みで移動してシミュレーションしており,受波波形には骨構造の局所的特徴が反映されている.音波伝搬のスクリーンショットを図2に示す.また,図3は,BV/TVと,高速波の音速と高速波振幅と低速波振幅の比との関係を示しており,実測とシミュレーションで同様の傾向が見られる.
【結果(平面振動子を用いた減衰測定)】
次に,平面振動子を用いて,試料を仮想的に1mmずつ削った場合の透過波形を観測することにより,試料内の伝搬過程における高速波の減衰を算出した.高速波の減衰は伝搬の初期に最大となり,その後減衰値が徐々に減少していた.この傾向は,同一試料の表裏いずれから試行した場合も同様であった(図4).この結果は,海綿骨中に入射後に高速波の波面が揃うまでにはある程度の伝搬距離が必要であり,波面が揃った後は減衰値が一定に落ち着くことを示している.
【結論】
以上のように,シミュレーション技術を用いれば,実測では困難な検討をおこなうことができ,海綿骨中の音波伝搬現象を理解する上で非常に有用な情報を得ることが可能であると言える.