Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム9
マイクロバブルの基礎と臨床をめぐって

(S172)

バブルリポソームによるがん治療

Cancer therapy by the combination of liposomal bubbles and ultrasound

丸山 一雄, 鈴木  亮, 小田 雄介, 宇都口 直樹

Kazuo MARUYAMA, Ryo SUZUKI, Yusuke ODA, Naoki UTOGUCHI

帝京大学薬学部

Teikyo University

キーワード :

 超音波は有用な診断・治療技術として医療現場で長年に渡り利用されている.最近では,微小気泡(マイクロバブル)に超音波照射した時に誘導される気泡の圧壊(キャビテーション)を利用した薬物・遺伝子送達システムが注目されている.これは,キャビテーション時に生じるマイクロジェット流や発熱により細胞膜の一時的な透過性向上を利用したシステムであり,低侵襲的な送達技術として期待されている.これまでに我々は,リポソームに超音波造影ガス(パーフルオロプロパンなど)を封入した新たなタイプの超音波感受性ナノバブル(バブルリポソーム)を開発し,超音波照射との併用によるがん治療について検討してきた.本シンポジウムでは,バブルリポソームと超音波によるがん治療への応用の可能性について論ずる.
(1)バブルリポソームと超音波照射を利用した新規がん温熱免疫療法:担がんマウスに対して,バブルリポソームを腫瘍内投与し,体外から腫瘍組織に向け超音波照射した.その後マウス骨髄由来 DC を腫瘍内投与し,腫瘍体積を指標に抗腫瘍効果を検討した. 
 その結果,有効ながん縮小が得られたとともに,遠隔部位のがん組織に対しても抗がん効果が得られた.バブルリポソームへの超音波照射によるキャビテーションで生じる発熱とジェット流によって,がん組織内にがん細胞の死滅に伴うがん関連抗原の放出や炎症性サイトカイン濃度の上昇が生じるため,DCを併用することで,より効果的なDC抗腫瘍免疫が誘導されたと考えられる.
(2)バブルリポソームと超音波照射によるがん遺伝子治療法:担がんマウスのがん組織にInterleukin-12 (IL-12) 発現遺伝子とバブルリポソームを投与し,超音波照射した.その結果,顕著な抗腫瘍効果が認められた.これは,腫瘍内でIL-12が発現し,がん免疫における強力なエフェクター細胞である CD8+T 細胞が活性化されたためであると推察された.それゆえ,本方法はがん遺伝子治療における有望な非ウイルスベクターになるものと期待される.
(3)バブルリポソームと超音波照射によるがん免疫療法: DCを用いたがん免疫療法では,DCのMHCクラスⅠ分子にがん関連抗原(TAA)を提示させ,がん細胞特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)を誘導することが重要である.しかし,DCのMHCクラスⅠ分子には主に細胞質内に存在する内在性抗原が提示され,TAAなどの外来性抗原をDCに作用させるだけではCTLの誘導効率が低く,有効な抗腫瘍効果は期待できない.バブルリポソームと超音波照射によって,TAAをDCの細胞質内に直接送達することができ,導入された抗原があたかもDCの内在性抗原として認識され,MHCクラスⅠ分子に抗原提示誘導可能となった.本法によって,外来性抗原であってもMHCクラスⅠ分子に抗原提示誘導可能になり,ex vivoがん免疫療法への応用が期待される.