Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム9
マイクロバブルの基礎と臨床をめぐって

(S171)

診断と治療への応用における微小気泡のふるまい

Behavior of bubbles in diagnostic and therapeutic applications of ultrasound

工藤 信樹

Nobuki KUDO

北海道大学 大学院情報科学研究科

Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University

キーワード :

【はじめに】
 診断で開始された気泡の応用は,治療に向けてさらに大きく拡大しようとしているが,そこで利用されている気泡の特徴やふるまいはそれぞれ異なる.本発表では,それぞれの応用における気泡のふるまいについて概観する.
【診断】
 診断において今後注目される応用として,ターゲティング気泡を用いた標的組織の描出が挙げられる.このような応用においては,いかにして気泡を壊さずに画像化するかが重要となる. アルブミンなど,あまり柔軟性がないシェルを持つ気泡が壊れる閾値はシェルの破断閾値で決定され,気泡は比較的高い音圧下で振動を開始する.これに対し,最近の超音波造影剤の微小気泡はリン脂質のシェルを持ち,低音圧でも良く振動する.リン脂質膜は安定であり,膜が破れても端面が接しさえすれば速やかに接合するという大きな特徴がある.それゆえこの種の気泡は,超音波照射下で膨張収縮を繰り返している間はシェルが破断と接合を繰り返しているが,照射後にはシェルが気泡全体を再び覆う状態に戻っていると推察できる.このような気泡の破壊閾値は,シェルの破断閾値ではなく,非等方的な収縮により気泡の分割が起きる閾値で決定されると考えられる.SonazoidとSonovueでは同じリン脂質系のシェルであるにも拘わらず,気泡の破壊閾値が異なる.シェルのどのような特性が気泡分割の閾値を決めるのかが解明できれば,低音圧でも良く振動し,かつ破壊音圧を任意に制御した気泡が実現できる可能性がある[1].
【治療】
 治療において気泡は大きく2つの役割を果たす.1つはキャビテーションの発生を促す役割であり,もう1つは細胞膜に孔を開ける針としての役割である. キャビテーションは,一旦発生すると音場から効率よくエネルギーを集めて自身をさらに発達させることができるが,最初に気泡が無いところにキャビテーションを生じるには大きな音圧が必要となる.微小気泡は,強い連続超音波の照射下で多くの気泡片に分割され,そのそれぞれが振動しながら成長と分割を繰り返すことによってさらに多くの気泡を作る.このような気泡は,超音波の照射が止まると拡散により消滅するため,その効果を利用するには,超音波の連続照射が不可欠である.生成される気泡の数は,最初に加えた気泡が内包するガスの総量に依存する.ソノポレーションの研究においてOptisonが多く使われた一つの理由は,気泡径が大きくガスの総量が多かったためと考えられる. 微小気泡が直接細胞に接触した状態では,非常に短いパルス超音波を1回照射するだけでも細胞膜に穿孔を生じる[2].この条件では,Optisonのような大気泡を用いることは細胞に致死的な損傷をもたらすためむしろ好ましくなく,小気泡が適している可能性がある[3].また,気泡が接触した細胞にのみ作用が起き,接触していない細胞は作用を受けないので,治療対象とする細胞にのみ付着するターゲティング気泡が重要な意味を持つ.将来,ソノポレーションをin vivoで行うことを考えると,生体に強力な連続超音波を繰り返し照射することはできないので,パルス超音波によるソノポレーションの重要性は高い.
【まとめ】
 同じ微小気泡であっても,その使い方により気泡は様々な機序で作用を生じる.気泡のふるまいを良く理解して正しい使い方を考える必要がある.
【参考文献】
1.Sakaguchi K, et al. IEEE Ultrasonics Symposium Proceedings 2008: 16751678.
2.Kudo N, et al. Biophysical Journal 2009, 96(12): 4866-4876.
3.八木他.日超医基礎技術研究会資料, BT2009(2),17-21.